冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

 家格が釣り合わない子爵令嬢でも王妃にふさわしいと思わせれば、向こうの勝ちだ。恋の障害は大きければ大きいほど美談になる。そこにわかりやすい悪役がいれば完璧だ。
 おそらく、この筋書きをヨハニスに吹き込んだのはヘレンだ。
 他者を貶めるやり方は悪意に満ちている。実にくだらない。
 彼女の台本では悪女であるルーリエは怒り狂う場面だ。ならばと、ルーリエはふっと穏やかな笑みを湛えたまま、右手を自分の頬に添えた。

「まぁ、どちらに悪女がいらっしゃるのでしょうか」
「しらばっくれる気か? 貴様以外にいるわけないだろうッ!」

 ヨハニスの背中越しにイグナーツと視線を交わし、キッパリと否定した。

「申し訳ないのですが、悪女呼ばわりされる覚えがありません。理由をお聞かせ願えますか?」