冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

 イグナーツはさらりとルーリエのローズピンクの髪を一房持ち上げ、そこに唇を落とす。直接、唇と唇が触れあったわけではない。だが無性に羞恥心がこみ上げてきて動揺してしまう。頬に熱が集まるのがわかる。
 経験値の差は明らかだった。それもそのはず、イグナーツは今年二十五歳の若き伯爵。社交界に身を置いている年数は言わずもがな、魔法伯として名を馳せるほどの功績も挙げている。
 しかもイグナーツは最年少で魔法省長官になった実力者。クライン魔法伯といえば、ひたむきに仕事に打ち込み、国王の信頼も得てきた人物だ。老若男女を虜にする美貌を持ちながら、これまで浮いた話もない。
 そんな男に求婚された。今さらながら、その事実に心臓が高鳴る。

「あ……あの……そんなに見つめないでくださる?」

 思わず逃げ腰になると、イグナーツは紳士的な距離を保ちながら悪びれもなく言う。