王都に戻ると、フレイヤはシルヴェリオによって王城にある医務室へと連れて行かれ、治癒師に診察してもらった。
フレイヤはどこも悪くないと主張したのだが、シルヴェリオが「念のため診てもらってほしい」と言って、譲らなかったのだ。
困り果てたフレイヤがネストレに助けを求める眼差しを送ってみたが、親友想いなネストレは助け舟を出してくれず、「何も異常が無かったら、それでいいではないか」と宥めてくるのだった。
そうして診察を受け、治癒師から異常なしとの診断を聞いたフレイヤは、シルヴェリオが手配したコルティノーヴィス伯爵家の馬車で、コルティノーヴィス香水工房に送ってもらった。
馬車には、シルヴェリオも一緒に乗り合わせている。
王城までは一緒だったリベラトーレは、フレイヤの無事をヴェーラに伝えるため、コルティノーヴィス伯爵家のタウン・ハウスへと戻ったのだ。
フレイヤたちがコルティノーヴィス香水工房に着く頃には、空はすっかり暗くなっており、星が瞬いている。
もう定時を過ぎており、店の扉には閉店と書いた札が下がっているが、工房内は明かりがついている。
コルティノーヴィス香水工房の扉をフレイヤが開くと、カウンターにいたエレナが大きく目を見開いて見つめてきた。
「ふ、副工房長!」
エレナはいつになく大きな声を上げると、カウンターから出てフレイヤに駆け寄った。
改めてフレイヤの顔を見つめると、唇を微かに震わせる。
「心配したんですよ。いったい、どこにいたんですか?」
「……心配をかけてごめんなさい、隣町にいたんです」
心配してくれていたエレナには悪いが、ラグナを守るためにも、それ以上は言えない。
フレイヤは心から、エレナに申し訳なく思うのだった。
エレナの声を聞きつけたのか、レンゾが離れにある作業所から、アレッシアが調香室から飛び出してくる。
「フレイヤさん! 見つかってよかったです」
安堵するレンゾのかたわらで、彼と契約をしている妖精たちが嬉しそうにダンスを踊っている。
レンゾが心配する姿を見ていた妖精たちは、彼が安心している様子を見て、喜んでいるようだ。
「もうっ、急にいなくなったから、とても心配したわ!」
アレッシアの口調は怒っているようだが、表情は今にも泣きそうだ。
「心配かけてごめんなさい」
フレイヤはレンゾとエレナとアレッシアに、深々と頭を下げる。
三人とも、ヴェーラに助けを求めるほど心配してくれたのだ。
それなのに、本当の事を言えないため後ろめたさを感じて、しおらしくなってしまう。
肩を落とすフレイヤに、レンゾたちは顔を見合わせる。
「フレイヤさん、無事で本当によかったです。俺たちは、最悪の事態が起こらないようにコルティノーヴィス伯爵に連絡をしたので、こうして何事も無くて、本当に安心しました」
「そうです。備えていて、何事も起きない方がいいのですよ」
レンゾがフレイヤを励ますと、エレナが続く。
「あなたって、困っている人がいると放っておけないお人好しだから、心配だわ」
アレッシアは、まだぷりぷりと怒っている素振りを見せる。
しかし、すぐに眉尻を下げた。まるで、困っているような、微笑んでいるような、複雑な表情になる。
「だから、私はここの工房で働いて、あなたが損をしないように、見張っておこうと思うの。そうしないと、いつか大変な目に遭いそうで心配だわ」
「アレッシアさん……! ここで働いてくれるのですね!」
フレイヤの表情が、途端に明るくなる。
アレッシアにはぜひともコルティノーヴィス香水工房で働いてもらいたいと思っていたから、念願が叶って嬉しい。
「改めて、これからもよろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね」
フレイヤが片手を差し出して握手を求めると、アレッシアが応えてくれる。
自然と、フレイヤの頬が緩んでいった。
「それでは、今から不在だった時の遅れを取り戻すため、頑張って香水を作りますね! レンゾさんとエレナさんとアレッシアさんは、定時になったら帰ってください!」
「それはダメだ。まずはしっかり休んでくれ」
シルヴェリオが、すぐに口を挟んできた。
あまりにも迅速な突っ込みだったので、フレイヤは虚を突かれたように、ポカンと口と目を開いて立ち尽くす。
「で、ですが、私のせいで遅れてしまいましたし……」
「フレイさんのせいではないだろう。それに、休まずに働くと、身体を壊してしまう」
「いいえ、疲れていないので大丈夫です」
「色んな事があったからフレイさんが疲れを感じていないだけで、身体は疲れているはずだ。今日はもう、家に帰って休んでくれ」
フレイヤが、「でも……」と渋る様子に、シルヴェリオが片眉を上げる。
「そういえば、今日のお菓子がまだだったな。今からカフェへ行こう。その後帰るといい」
「うっ、確かに、今日のお菓子はまだですけど……」
「今日聞いたばかりなのだが、焼き立ての美味しいスコーンを食べれる店があるらしい。そこへ行こうか」
「焼きたてのスコーン……美味しそう……」
うっとりとお菓子を想像するフレイヤは、シルヴェリオが企み顔を浮かべていることに気づき、ハッとして意識を戻す。
「お菓子で釣るなんて、狡いです……!」
このまま工房に残って香水を作りたいのに、シルヴェリオからスコーンの事を聞いたせいで、頭の中がスコーンの事でいっぱいになる。
フレイヤは苦悶の表情を浮かべて迷っている。
そんなフレイヤを見て、レンゾとエレナとアレッシアは笑いを堪え、肩を震わせた。
「フレイヤさん、お腹もすく時間ですし、もう上がってしまいましょうよ」
レンゾに背中を押されたフレイヤは、少し悩んだが、こくりと小さく頷いて、今日はもう仕事を上がることにした。
***あとがき***
いつも応援いただきありがとうございます。
自分の体調と付き合っていけるようになりましたので、毎週末更新に戻していきます。
応援いただき、誠にありがとうございました(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
フレイヤはどこも悪くないと主張したのだが、シルヴェリオが「念のため診てもらってほしい」と言って、譲らなかったのだ。
困り果てたフレイヤがネストレに助けを求める眼差しを送ってみたが、親友想いなネストレは助け舟を出してくれず、「何も異常が無かったら、それでいいではないか」と宥めてくるのだった。
そうして診察を受け、治癒師から異常なしとの診断を聞いたフレイヤは、シルヴェリオが手配したコルティノーヴィス伯爵家の馬車で、コルティノーヴィス香水工房に送ってもらった。
馬車には、シルヴェリオも一緒に乗り合わせている。
王城までは一緒だったリベラトーレは、フレイヤの無事をヴェーラに伝えるため、コルティノーヴィス伯爵家のタウン・ハウスへと戻ったのだ。
フレイヤたちがコルティノーヴィス香水工房に着く頃には、空はすっかり暗くなっており、星が瞬いている。
もう定時を過ぎており、店の扉には閉店と書いた札が下がっているが、工房内は明かりがついている。
コルティノーヴィス香水工房の扉をフレイヤが開くと、カウンターにいたエレナが大きく目を見開いて見つめてきた。
「ふ、副工房長!」
エレナはいつになく大きな声を上げると、カウンターから出てフレイヤに駆け寄った。
改めてフレイヤの顔を見つめると、唇を微かに震わせる。
「心配したんですよ。いったい、どこにいたんですか?」
「……心配をかけてごめんなさい、隣町にいたんです」
心配してくれていたエレナには悪いが、ラグナを守るためにも、それ以上は言えない。
フレイヤは心から、エレナに申し訳なく思うのだった。
エレナの声を聞きつけたのか、レンゾが離れにある作業所から、アレッシアが調香室から飛び出してくる。
「フレイヤさん! 見つかってよかったです」
安堵するレンゾのかたわらで、彼と契約をしている妖精たちが嬉しそうにダンスを踊っている。
レンゾが心配する姿を見ていた妖精たちは、彼が安心している様子を見て、喜んでいるようだ。
「もうっ、急にいなくなったから、とても心配したわ!」
アレッシアの口調は怒っているようだが、表情は今にも泣きそうだ。
「心配かけてごめんなさい」
フレイヤはレンゾとエレナとアレッシアに、深々と頭を下げる。
三人とも、ヴェーラに助けを求めるほど心配してくれたのだ。
それなのに、本当の事を言えないため後ろめたさを感じて、しおらしくなってしまう。
肩を落とすフレイヤに、レンゾたちは顔を見合わせる。
「フレイヤさん、無事で本当によかったです。俺たちは、最悪の事態が起こらないようにコルティノーヴィス伯爵に連絡をしたので、こうして何事も無くて、本当に安心しました」
「そうです。備えていて、何事も起きない方がいいのですよ」
レンゾがフレイヤを励ますと、エレナが続く。
「あなたって、困っている人がいると放っておけないお人好しだから、心配だわ」
アレッシアは、まだぷりぷりと怒っている素振りを見せる。
しかし、すぐに眉尻を下げた。まるで、困っているような、微笑んでいるような、複雑な表情になる。
「だから、私はここの工房で働いて、あなたが損をしないように、見張っておこうと思うの。そうしないと、いつか大変な目に遭いそうで心配だわ」
「アレッシアさん……! ここで働いてくれるのですね!」
フレイヤの表情が、途端に明るくなる。
アレッシアにはぜひともコルティノーヴィス香水工房で働いてもらいたいと思っていたから、念願が叶って嬉しい。
「改めて、これからもよろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね」
フレイヤが片手を差し出して握手を求めると、アレッシアが応えてくれる。
自然と、フレイヤの頬が緩んでいった。
「それでは、今から不在だった時の遅れを取り戻すため、頑張って香水を作りますね! レンゾさんとエレナさんとアレッシアさんは、定時になったら帰ってください!」
「それはダメだ。まずはしっかり休んでくれ」
シルヴェリオが、すぐに口を挟んできた。
あまりにも迅速な突っ込みだったので、フレイヤは虚を突かれたように、ポカンと口と目を開いて立ち尽くす。
「で、ですが、私のせいで遅れてしまいましたし……」
「フレイさんのせいではないだろう。それに、休まずに働くと、身体を壊してしまう」
「いいえ、疲れていないので大丈夫です」
「色んな事があったからフレイさんが疲れを感じていないだけで、身体は疲れているはずだ。今日はもう、家に帰って休んでくれ」
フレイヤが、「でも……」と渋る様子に、シルヴェリオが片眉を上げる。
「そういえば、今日のお菓子がまだだったな。今からカフェへ行こう。その後帰るといい」
「うっ、確かに、今日のお菓子はまだですけど……」
「今日聞いたばかりなのだが、焼き立ての美味しいスコーンを食べれる店があるらしい。そこへ行こうか」
「焼きたてのスコーン……美味しそう……」
うっとりとお菓子を想像するフレイヤは、シルヴェリオが企み顔を浮かべていることに気づき、ハッとして意識を戻す。
「お菓子で釣るなんて、狡いです……!」
このまま工房に残って香水を作りたいのに、シルヴェリオからスコーンの事を聞いたせいで、頭の中がスコーンの事でいっぱいになる。
フレイヤは苦悶の表情を浮かべて迷っている。
そんなフレイヤを見て、レンゾとエレナとアレッシアは笑いを堪え、肩を震わせた。
「フレイヤさん、お腹もすく時間ですし、もう上がってしまいましょうよ」
レンゾに背中を押されたフレイヤは、少し悩んだが、こくりと小さく頷いて、今日はもう仕事を上がることにした。
***あとがき***
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