それからフレイヤは、ラグナにやや強引に勧められて、客間で一時間ほど昼寝をした。
ちょうどフレイヤが目覚める頃にアイリックも目を覚ましたようで、フレイヤは迎えに来てくれたリブと一緒にアイリックのいる部屋へと向かった。
「それでは、第一王子殿下のお好みの香りを調香したいと思います」
フレイヤはラグナとリブに協力してもらい、魔法で調香台をアイリックの部屋に移すと、香水作りを始めた。
「第一王子殿下のご希望の香りはありますか?」
「いや、特には……」
「それではまず、第一王子殿下のお好きな香りを見つけていきましょう」
フレイヤはまず、アイリックに香りの系統の説明をした。
近くで聞いているラグナとリブは興味津々だが、アイリックはどこか上の空だ。
その後、フレイヤがその場で精油をつけた試香紙を香りの系統別に用意してアイリックに匂いを嗅いでもらったのだが、アイリックはどの香りに対しても、「いい香りだな」とやや暗い表情を浮かべながら回答をするだけだ。
(香水は苦手なのかな?)
強い香りが苦手な人は、香りを纏うことすら厭うだろう。
香りは、人の心身に影響を与えるものだ。
好んだ香りを嗅ぐことで心が安らぐこともある一方で、苦手な香りを嗅げば不快感を感じることもあるから、香水が苦手な人に無理に勧めたくない。
(もしも第一王子殿下が香水の香りが強くて苦手意識を持っているなら、香り水を勧めた方がいいかもしれない)
そう思ったフレイヤは、アイリックに香水が苦手か尋ねようとして――言葉を呑みこんだ。アイリックは、自分の隣にいるラグナをちらと見ては、視線を逸らしたのだ。
そんなアイリックの様子が、まるで迷子になった子どものように不安げに見える。
(第一王女殿下を心配しているようにも見えるし……、もしかして、自分の好きな香りについて考えるどころではないのかもしれない)
フレイヤは顎に手を添えつつ、う~んと悩む。どの可能性もあくまで予想であるため、実際にアイリックと話した方が良さそうだ。
もしかすると、香り水の仄かな香りすら苦手だと言われて、依頼してくれたラグナの意に反して香水も香り水も作らない結果となってしまうかもしれないが、それでも調香師である以上、相手の苦手な香りを押しつけるようなことはしたくない。
「あの、第一王子殿下はもしかして、香水が苦手でしょうか?」
「香りが強過ぎなければ、特に苦手ではないのだが……どうしてそのような質問を?」
アイリックはフレイヤに視線を向けると、不思議そうに目を瞬かせる。
特に苦手ではないと聞いたフレイヤは、内心安堵した。
「第一王子殿下の顔色が優れないように見受けられましたので、香水が苦手なのに無理をされているのかもしれないと思ったのです。もし強い香りが苦手であれば香り水を勧め、その香りも苦手であれば、第一王女殿下への無礼となることは承知ですが、今回の依頼をお断りしようと考えておりました。望まない香りは、人の心身に毒となります。調香師として、お客様が深いとなる香りは届けたくないのです」
「……そうだったか。気を遣わせたな」
アイリックは申し訳なさそうに眉尻を下げると、やや躊躇いを見せつつ、言葉を続けた。
「……もしも私の病が癒えたら、またラグナとの争いを再開することになるかもしれないと思うと、このままがいいのではと考えてしまうんだ。もしも周りの貴族たちがラグナを王太子の座から引きずり下ろすために過激な行動をとるようになって、そのせいでラグナが命を落としてしまったら……私は絶対に、自分が生き残れたことを後悔する」
「アイリック……そんなことを考えていたのね」
アイリックの想いを知ったラグナはショックを受けたようで、両手で口元を覆い隠し、潤んだ瞳でアイリックを見つめる。
「宰相の様子を探っていたラグナなら、起こりえる事態だとわかるだろう?」
「それは、そうだけど……」
ラグナは言葉を切ると、口元を覆っていた手を外し、胸元で両手を握りしめる。
「それでも私は、アイリックにはなんとかして病を癒してもらいたい。あなたがいないと、張り合う相手がいなくて寂しいもの。それに、あなたの病が癒えたら、一緒に出掛けて、たくさん思い出を作りたいわ。だって私たち、お互いに敵視していた時期は、公務で定められない限り、全く一緒に出かけなかったでしょう?」
「ラグナ……」
「今までとはちがって、私たちが手を組んだらきっと、お互いを守りながら良い未来へと進んでいけると思うわ」
「……あまりにも楽観的過ぎる考えだと言いたいところだが……。ラグナの言う通り、協力し合えばよい未来を掴めるかもしれない。――ルアルディ殿、香水作り、よろしく頼む」
改めてアイリックから依頼してもらったフレイヤは、にっこりと笑みを浮かべると、優雅な所作で礼をとる。
「第一王子殿下のために心を込めて香水を作ります。……とはいえ、私は病を癒すことはできず、香りを作る事しかできませんが……」
「それが君の本来の仕事なのだから、なにも卑下することはない。むしろ胸を張って言えばいい」
アイリックの言葉に、フレイヤは複雑な思いを抱いたまま頷く。アイリックの言う通りだが、できる事なら彼を癒したいと思うのだった。
***
そうしてフレイヤたちは香水作りを再開した。
フレイヤはアイリックの好きな香りを見つけるべく、アイリックへの質問を始める。
「どのような香りを嗅いだ時に心が安らぎますか?」
「……スピネルベリーの香りだな。心が落ち着くから、香水に加えてほしい」
「かしこまりました。スピネルベリーですね」
紙にメモを書きつけていたフレイヤは、リブに淹れてもらった紅茶にスピネルベリーが入っていた事を思い出した。
「先ほどリブさんに淹れていただいた紅茶にもスピネルベリーが入っていたのですが、もしかして味もお好きなんですか?」
「実を言うと、好きな味かと言えば普通なんだ。好きというよりは、懐かしいからつい手に取ってしまうのだろうな」
アイリックはゆっくりと顔を動かすと、窓の外を見遣る。
「楽しい思い出のある香りだからな。ラグナとリブと三人でリブの故郷にある森で遊んでいた頃に、よくスピネルベリーの香りがしていた」
「森で遊んでいた時の香り……それなら、グリーン系の香りとの組み合わせはいかがでしょうか?」
フレイヤは調香台からいくつか精油を取り出すと、試香紙につけてアイリックに香りを嗅いでもらい、彼が好む香りをいくつか絞った。
そうして、トップノートにスピネルベリー、ベースノートにバジル、ハートノートにシダーウッドの組み合わせで香水を作ることになった。
「それでは、香水を作りますね」
ラグナとアイリックとリブに見守間れる中、フレイヤはスポイトを使い、用意されていた香水瓶の中に精油を注いでいく。
(どうか、アイリックさんの病が癒えますように)
そう祈りを込めながら、手を動かした。
集中していたフレイヤは、そばでフレイヤの作業を見守っていたラグナとアイリックが驚愕した表情を浮かべていたことに、気づいていなかった。
「――完成しました。こちらが、第一王子殿下のための香水です」
フレイヤは完成した香水をアイリックに差し出す。
アイリックは香水瓶を受け取ると、手の中で香水瓶の向きを変えてしげしげと見守る。
まさか完成した香水の香りには興味を示さず、香水瓶を観察し始めるとは思ってもみなかったフレイヤは、きょとんと首を傾げた。
「第一王子殿下、ぜひ一度、香りを嗅いでみてください。もしお気に召さない場合は改めて調香いたします」
「……そうだな。まずは完成した香りを試させてもらおう」
アイリックは香水瓶の蓋を開けると、自分の手首に香水をつけた。そして、手首に顔を近づけて匂いを嗅ぐと、ふっと口元を綻ばせた。
「先ほど使っていた香り水から魔力を感じたのだが――この香水からも魔力を感じる。回復魔法をかけてもらった時に近い感覚がするから、聖属性の魔力が宿っているな。大抵の者は気づかないだろうが、魔力を感知できる者ならすぐに気づくだろう」
アイリックの言葉に、ラグナが小さく頷いた。
「私も、先ほどフレイヤさんが香水を作っている時から感じたわ。エイレーネ王国では聖属性の魔力を持つ者は宮廷治癒師となり国に保護されると聞いているのだけど……フレイヤさんはどうして調香師に?」
「……っ」
フレイヤはタラリと冷や汗をかく。アイリックが回復するよう祈りを込めはしたが、魔法を使った覚えはない。なにより、よりによってシルヴェリオがいない時に異国の王族に聖属性の魔力を持っていることに気づかれてしまい、不安が募る。
「い、いえ。私は聖属性の魔力は持っていません。本当に、ただの調香師なんですよ?」
嘘をつくことが苦手なフレイヤだが、精一杯の嘘をついてその場をやり過ごそうとする。
ラグナとアイリックは顔を見合わせると、くすくすと笑った。
「ふふ、そういうことにしておきましょうか」
「いや、このままではよくないだろう。もう少し上手く誤魔化せるようにしないと、悪い奴らに利用されそうで心配だ」
「ほ、本当に私は聖属性の魔力を持っていない、ただの調香師なんです……!」
フレイヤが慌てて否定するが、ラグナとアイリックとリブは微笑ましいものを見るような眼差しで見守って来るだけだ。
(シ、シルヴェリオ様、助けてください……!)
なすすべもなく困り果てたフレイヤが心の中でシルヴェリオ様に助けを求めた時、不意に部屋の中の空気が張りつめる。
「強い魔力を感じるわ」
ラグナがそう言った途端、部屋の中に金色に光る粒子が現れた。光の粒子はあっという間に増えて一カ所に集まり、膨らんでゆく。
そして、光の中から、魔導士団の制服である黒地に銀の刺繍をしたジャケットとスラックスを着た人物――シルヴェリオが現れて、部屋の中に降り立った。
シルヴェリオは見る者を凍てつかせるようなほど鋭い眼光だったが、フレイヤを見つけるや否や、泣きそうな表情に変わった。
「フレイさん! 怪我はないか?」
***あとがき***
たびたび更新が遅れて申し訳ございません!
暑い日が続きますので、水分と塩分と睡眠をとってお体にお気をつけてお過ごしください…!
ちょうどフレイヤが目覚める頃にアイリックも目を覚ましたようで、フレイヤは迎えに来てくれたリブと一緒にアイリックのいる部屋へと向かった。
「それでは、第一王子殿下のお好みの香りを調香したいと思います」
フレイヤはラグナとリブに協力してもらい、魔法で調香台をアイリックの部屋に移すと、香水作りを始めた。
「第一王子殿下のご希望の香りはありますか?」
「いや、特には……」
「それではまず、第一王子殿下のお好きな香りを見つけていきましょう」
フレイヤはまず、アイリックに香りの系統の説明をした。
近くで聞いているラグナとリブは興味津々だが、アイリックはどこか上の空だ。
その後、フレイヤがその場で精油をつけた試香紙を香りの系統別に用意してアイリックに匂いを嗅いでもらったのだが、アイリックはどの香りに対しても、「いい香りだな」とやや暗い表情を浮かべながら回答をするだけだ。
(香水は苦手なのかな?)
強い香りが苦手な人は、香りを纏うことすら厭うだろう。
香りは、人の心身に影響を与えるものだ。
好んだ香りを嗅ぐことで心が安らぐこともある一方で、苦手な香りを嗅げば不快感を感じることもあるから、香水が苦手な人に無理に勧めたくない。
(もしも第一王子殿下が香水の香りが強くて苦手意識を持っているなら、香り水を勧めた方がいいかもしれない)
そう思ったフレイヤは、アイリックに香水が苦手か尋ねようとして――言葉を呑みこんだ。アイリックは、自分の隣にいるラグナをちらと見ては、視線を逸らしたのだ。
そんなアイリックの様子が、まるで迷子になった子どものように不安げに見える。
(第一王女殿下を心配しているようにも見えるし……、もしかして、自分の好きな香りについて考えるどころではないのかもしれない)
フレイヤは顎に手を添えつつ、う~んと悩む。どの可能性もあくまで予想であるため、実際にアイリックと話した方が良さそうだ。
もしかすると、香り水の仄かな香りすら苦手だと言われて、依頼してくれたラグナの意に反して香水も香り水も作らない結果となってしまうかもしれないが、それでも調香師である以上、相手の苦手な香りを押しつけるようなことはしたくない。
「あの、第一王子殿下はもしかして、香水が苦手でしょうか?」
「香りが強過ぎなければ、特に苦手ではないのだが……どうしてそのような質問を?」
アイリックはフレイヤに視線を向けると、不思議そうに目を瞬かせる。
特に苦手ではないと聞いたフレイヤは、内心安堵した。
「第一王子殿下の顔色が優れないように見受けられましたので、香水が苦手なのに無理をされているのかもしれないと思ったのです。もし強い香りが苦手であれば香り水を勧め、その香りも苦手であれば、第一王女殿下への無礼となることは承知ですが、今回の依頼をお断りしようと考えておりました。望まない香りは、人の心身に毒となります。調香師として、お客様が深いとなる香りは届けたくないのです」
「……そうだったか。気を遣わせたな」
アイリックは申し訳なさそうに眉尻を下げると、やや躊躇いを見せつつ、言葉を続けた。
「……もしも私の病が癒えたら、またラグナとの争いを再開することになるかもしれないと思うと、このままがいいのではと考えてしまうんだ。もしも周りの貴族たちがラグナを王太子の座から引きずり下ろすために過激な行動をとるようになって、そのせいでラグナが命を落としてしまったら……私は絶対に、自分が生き残れたことを後悔する」
「アイリック……そんなことを考えていたのね」
アイリックの想いを知ったラグナはショックを受けたようで、両手で口元を覆い隠し、潤んだ瞳でアイリックを見つめる。
「宰相の様子を探っていたラグナなら、起こりえる事態だとわかるだろう?」
「それは、そうだけど……」
ラグナは言葉を切ると、口元を覆っていた手を外し、胸元で両手を握りしめる。
「それでも私は、アイリックにはなんとかして病を癒してもらいたい。あなたがいないと、張り合う相手がいなくて寂しいもの。それに、あなたの病が癒えたら、一緒に出掛けて、たくさん思い出を作りたいわ。だって私たち、お互いに敵視していた時期は、公務で定められない限り、全く一緒に出かけなかったでしょう?」
「ラグナ……」
「今までとはちがって、私たちが手を組んだらきっと、お互いを守りながら良い未来へと進んでいけると思うわ」
「……あまりにも楽観的過ぎる考えだと言いたいところだが……。ラグナの言う通り、協力し合えばよい未来を掴めるかもしれない。――ルアルディ殿、香水作り、よろしく頼む」
改めてアイリックから依頼してもらったフレイヤは、にっこりと笑みを浮かべると、優雅な所作で礼をとる。
「第一王子殿下のために心を込めて香水を作ります。……とはいえ、私は病を癒すことはできず、香りを作る事しかできませんが……」
「それが君の本来の仕事なのだから、なにも卑下することはない。むしろ胸を張って言えばいい」
アイリックの言葉に、フレイヤは複雑な思いを抱いたまま頷く。アイリックの言う通りだが、できる事なら彼を癒したいと思うのだった。
***
そうしてフレイヤたちは香水作りを再開した。
フレイヤはアイリックの好きな香りを見つけるべく、アイリックへの質問を始める。
「どのような香りを嗅いだ時に心が安らぎますか?」
「……スピネルベリーの香りだな。心が落ち着くから、香水に加えてほしい」
「かしこまりました。スピネルベリーですね」
紙にメモを書きつけていたフレイヤは、リブに淹れてもらった紅茶にスピネルベリーが入っていた事を思い出した。
「先ほどリブさんに淹れていただいた紅茶にもスピネルベリーが入っていたのですが、もしかして味もお好きなんですか?」
「実を言うと、好きな味かと言えば普通なんだ。好きというよりは、懐かしいからつい手に取ってしまうのだろうな」
アイリックはゆっくりと顔を動かすと、窓の外を見遣る。
「楽しい思い出のある香りだからな。ラグナとリブと三人でリブの故郷にある森で遊んでいた頃に、よくスピネルベリーの香りがしていた」
「森で遊んでいた時の香り……それなら、グリーン系の香りとの組み合わせはいかがでしょうか?」
フレイヤは調香台からいくつか精油を取り出すと、試香紙につけてアイリックに香りを嗅いでもらい、彼が好む香りをいくつか絞った。
そうして、トップノートにスピネルベリー、ベースノートにバジル、ハートノートにシダーウッドの組み合わせで香水を作ることになった。
「それでは、香水を作りますね」
ラグナとアイリックとリブに見守間れる中、フレイヤはスポイトを使い、用意されていた香水瓶の中に精油を注いでいく。
(どうか、アイリックさんの病が癒えますように)
そう祈りを込めながら、手を動かした。
集中していたフレイヤは、そばでフレイヤの作業を見守っていたラグナとアイリックが驚愕した表情を浮かべていたことに、気づいていなかった。
「――完成しました。こちらが、第一王子殿下のための香水です」
フレイヤは完成した香水をアイリックに差し出す。
アイリックは香水瓶を受け取ると、手の中で香水瓶の向きを変えてしげしげと見守る。
まさか完成した香水の香りには興味を示さず、香水瓶を観察し始めるとは思ってもみなかったフレイヤは、きょとんと首を傾げた。
「第一王子殿下、ぜひ一度、香りを嗅いでみてください。もしお気に召さない場合は改めて調香いたします」
「……そうだな。まずは完成した香りを試させてもらおう」
アイリックは香水瓶の蓋を開けると、自分の手首に香水をつけた。そして、手首に顔を近づけて匂いを嗅ぐと、ふっと口元を綻ばせた。
「先ほど使っていた香り水から魔力を感じたのだが――この香水からも魔力を感じる。回復魔法をかけてもらった時に近い感覚がするから、聖属性の魔力が宿っているな。大抵の者は気づかないだろうが、魔力を感知できる者ならすぐに気づくだろう」
アイリックの言葉に、ラグナが小さく頷いた。
「私も、先ほどフレイヤさんが香水を作っている時から感じたわ。エイレーネ王国では聖属性の魔力を持つ者は宮廷治癒師となり国に保護されると聞いているのだけど……フレイヤさんはどうして調香師に?」
「……っ」
フレイヤはタラリと冷や汗をかく。アイリックが回復するよう祈りを込めはしたが、魔法を使った覚えはない。なにより、よりによってシルヴェリオがいない時に異国の王族に聖属性の魔力を持っていることに気づかれてしまい、不安が募る。
「い、いえ。私は聖属性の魔力は持っていません。本当に、ただの調香師なんですよ?」
嘘をつくことが苦手なフレイヤだが、精一杯の嘘をついてその場をやり過ごそうとする。
ラグナとアイリックは顔を見合わせると、くすくすと笑った。
「ふふ、そういうことにしておきましょうか」
「いや、このままではよくないだろう。もう少し上手く誤魔化せるようにしないと、悪い奴らに利用されそうで心配だ」
「ほ、本当に私は聖属性の魔力を持っていない、ただの調香師なんです……!」
フレイヤが慌てて否定するが、ラグナとアイリックとリブは微笑ましいものを見るような眼差しで見守って来るだけだ。
(シ、シルヴェリオ様、助けてください……!)
なすすべもなく困り果てたフレイヤが心の中でシルヴェリオ様に助けを求めた時、不意に部屋の中の空気が張りつめる。
「強い魔力を感じるわ」
ラグナがそう言った途端、部屋の中に金色に光る粒子が現れた。光の粒子はあっという間に増えて一カ所に集まり、膨らんでゆく。
そして、光の中から、魔導士団の制服である黒地に銀の刺繍をしたジャケットとスラックスを着た人物――シルヴェリオが現れて、部屋の中に降り立った。
シルヴェリオは見る者を凍てつかせるようなほど鋭い眼光だったが、フレイヤを見つけるや否や、泣きそうな表情に変わった。
「フレイさん! 怪我はないか?」
***あとがき***
たびたび更新が遅れて申し訳ございません!
暑い日が続きますので、水分と塩分と睡眠をとってお体にお気をつけてお過ごしください…!


