Side 白狼 李翔
ある冬の、寒い日
夕方になり、寒さの増したかたわれ時。
長すぎるぐらいの髪を結って部屋を出る。
家では和服なので、外行きの洋服に着替える。
屋敷の前に止めた車に乗りこみ、仲間の元へと向かう。
あたりはもう暗くて、
静けさと闇だけが街を覆っていた。
いつもなら、塀の向こうはこちら以上の闇を抱える。
真っ黒で、ドス黒いほどの 「闇」
でも、今日は違った。
空気がいつもは「闇」なのに。
「闇」であるはずの東側が、「紅」に染まっていた。
もちろん比喩表現だ。
怒りの真紅……
なんてな……
……念の為に、警戒しておくか、
「……おい、塀の見張りを強化しろ」
「承知いたしました。早急に対応いたします。」
運転席に乗って運転している部下に手配させる。
東側は昔から、狂ったヤツが多い。
クスリ、脅し、抗争、強姦……などなど
例を上げればキリがない。
所詮は雑魚の集まりだ。
でも、数多の雑魚が集まれば、そう簡単な話ではなくなる。
俺たち、西側は「狼」をあしらった名前を持つ5つのグループによって統制されている。
頂点に立つのが、墓場の精霊王と呼ばれる
『 狼鬼組 』
その名の通り、死を司る族だ。
それに反し、東側は「華」の名をあしらった名前も持つグループが統制している。
頭に立つのは月桂組、立花家。
その他は、統制が取れないほどの小さな族が無数に存在し、何とか型に収まっている。
野蛮な奴らの集まりであり、出来れば関わりたくない。
「見張りの強化、完了いたしました。」
「ああ、」
何も無いといいが、
こういう時は何も無いわけが無い。
プルルルルルル─────。
ほら、早速俺の電話がなった。
俺の次ぐらいに位置する部下からのもの。
おそらく塀の見張りに当てられたはずだが。
「一条?何?」
電話の相手は思った通り、部下の一条ってやつ。
「それが……」
「はぁー!?どーゆう事だよッ?……そこで待ってろッ」
急いで電話を切り、一条の元へ向かう。
「おい、今すぐ塀に向かえッ」
一条の報告は想像を絶するものだった。
良くて、不審者を捕らえた、か……
悪くて、東側が攻撃を試みている……
ぐらいだと思ったのに
報告の内容は、
「……月桂組の姫が落ちてきました!」
これが雅との出会いだった。