それからのことはあまり覚えていない。








みんなが私を睨む理由。







私が茜ちゃんを虐めたことになっているらしい。







茜ちゃんの兄である、副総長はブチ切れ。





当の本人である茜ちゃんは、泣いてる。





いや、泣いてるフリかな。








私たちの属する月桂組では、姫がひとりでないことも少なくない。








だからルールがある。







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姫とは、最高権力を持つ月桂組の特権であり、
まさしく、「華」である。



よって、姫同士の争い事は固く禁ずる。



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そんなことするわけないじゃん、








それからは、殴らるだけだった。








月翔まで、私を殴る。







いたい。








「お前は、そういう奴だったんだな、ガッカリだよ、」





月翔にこんな冷たい声を向けられたのは初めてで。




『っ、証拠はあるのッ!?』










「学校内で、目撃があった。」




『えっ……?』





「これ、写ってんのテメェだろ?」



『なに、これ……?』










写真に映る後ろ姿。



顔は見えない。でも後ろ姿は私と似てる。


黒髪のロングに、私が気に入ってる水色のスカート


私にそっくりの後ろ姿は、はっきりと茜ちゃんの髪の毛を握り、引っ張ってる。






「お前が、そんなヤツって知っていたら、姫になんてしなかったよ」




『あっそ……』





私は、はめられたんだ。




ここでようやく気づいた。




私は姫だから、そんなことあるわけないと、





勝手に信じていた。





馬鹿だな、私。





私は処刑される。






「組長より、処分の許可は既に得ている。ほら、処分通告だ。」




月翔が1枚のカードをこちらに投げる。





床を滑って、私のしゃがんでいる元までカードが流れてきた。






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以下の者による違反行為があったことを認め、
処分を許可する。

月桂組 姫

東雲 雅 (しののめ みやび)


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組長とは、若頭の上に立つ存在だ。






つまり、この街の最高権力者。







その者より、処分通告を受けた私を、






誰も助けるわけが無い。















トン─────トン─────……




月翔が近づいてくる。



ナイフを持ってる。殺す気だ。










「総長、やっちまえ〜!」






「悪魔は残虐に処刑すべきだぜ〜」







うるさい、野次馬たち。







悪魔ね、






穢れた「華」は「悪魔」と呼ばれる。



















もーいいや、悪魔になったって。









逃げ出してやるっ─────。


































俯いていた顔を上げ、月翔の目をしっかり捉えて睨む。




「っ……」



月翔が息を飲むのがわかった。




前から思ってた、月翔は私に弱い。






『私は、やってないよぉ、』




睨んだ割にか細い声しか出ない。







それでも月翔は動揺していた。






その不意をついて、全力で走る。









はぁ、はぁ、はぁ、がはっ、────────。











後ろから聞こえる声。覚えてるのは







何十人の動揺の声と、憎悪のこもった声と、








「ッ早く罪人を捕らえろッ!!!!!」








「早くしてよっ!!!あいつは悪魔よっ!!!!!」








そんな、月翔と茜ちゃんの声だった。