“モンスター(monster)”。
怪物。化け物。ファンタジーな世界に出てくる、架空の生き物。
「はわわ……」
思わず、漫画の間抜けキャラのような声が出た。
鍵をかけた自室で、辞書を何度も読み直す。
ネットが繋がらないから、アナログな方法で確かめるしかない。
そうだよね、怪物って意味だよね。私が間違えてるわけじゃないよね。
「一体どうなってるの……。電話も繋がらないから連絡できないし……」
私にこの仕事を紹介した人にどういうことか説明してもらおうと思ったが、スマホは圏外のままだ。
「私、騙された…………?」
でもあの人は、私たちの両親が死んでからの三年間、何不自由ない生活を提供してくれた。
騙されただなんて思いたくない。
それに私には、ミッションがある。
ミッションを達成しなければ、弟のためにも帰れない。
というか、物理的に帰れなそうだった。
あの後食堂を走って出て、寮の外へ向かってみたけど――来る時はなかったはずの、明らかに近付いちゃいけない雰囲気の鉄柵があったのだ。
「ああああっ! もう、どうすればいいのーーー!!」
叫んだ次の瞬間、ドンドンドンドンドンドンドンドンッ! と外から激しくドアを叩かれる音がした。
うわあああ、今度は何!?
怯えながらもドアに近付く。すると、さっきまでうるさかった音がしんと静まった。
何だか不気味に思い、ドアから一歩一歩と距離を置く。
――刹那、ドアを蹴破られた。
「寮母サンの部屋はここかぁぁぁぁ~~~~!?」
「ギャハハハハハ! うまそうな人間の匂いだ!」
背中に羽の生えた、明らかに私の知るホモ・サピエンスではない者たちが荒々しく入ってくる。
顔や背格好は人間だけど、私の知ってるホモ・サピエンスに羽は生えていない。
髪型がいかにもヤンキーだし派手だし、ガラが悪すぎてそういう意味でもモンスターだ。
……私、部屋でゆっくり休むこともできないの……?
「………………ワタシ、ニンゲンデハ、アリマセン。最新のロボット、デス」
「嘘つけ! 人間の匂いぷんぷんだっての!」
「いくら成績最底辺のオレらでも、そんなんで騙されねーからな!」
悪足掻きとして無機物のふりをしてみたが、バレバレだった。
ちっ……。
「分かった。あなたたち、要するにお腹空いてるんですよね?」
さっき昼ご飯食べたばかりなのに食い意地のはっているモンスターたちに、ゆっくりと聞いてみる。
「そうだ! お前を食べさせろ!」
「人間はうまいって噂なんだ! 寮長からは寮母は食うなって言われてっけど、オレらは誰にも止めらんねえぜ!」
止まってくれ。