だからこういう場は最初の領主の挨拶を聞いたら去るようにしている。
今日も幹部に後を任せ、さっさと寝床についた。
寝る前はいつも茜との思い出を振り返る。
今にもフィルムが擦り切れそうになるぐらい何度も、何度も、何度も。
朝起きる度に茜がいないことに絶望するけれど、この習慣を辞めることは出来なかった。
俺が正気を保っていられるのは、他でもない茜のおかげだから。
記憶の中の茜は、いつも「紅くん」と猫が甘えるような声で呼んでくれて「だいすき」だと笑いかけてくれる。
今夜は俺が珍しく中学校に行った日のことを思い出した。
学校なんて行きたくなかったが通知表を取りに来いと学校から連絡があったので渋々向かった日、帰り際に運悪く同級生に出くわした。
そして異様な目で俺を不躾にじろじろと見て、俺が顔を向ければすぐに逸らすという気分の悪いことをされた。
そういえば茜が俺をあんな目で見たことはただの一度もない。
どうしてだろう。
気になったから聞いてみた。
「茜は、俺のことが怖くないの?」
「うん」
茜はいつもと何ら変わらぬ調子で頷いた。



