お見送りのとき、行ってきますのキスだけを落とし、紅くんたちは本邸を後にした。

 後ろ髪をひかれるようにチラチラとこちらを振り返る紅くんに、にっこりと笑顔を浮かべながら手を振り返しながら。

 紅くんは以前のように所有印は残してくれなかった。

 これは跡が消えるまでに帰って来られないことを意味している。

 持っていたものを失う方が辛いからね。

 でも寂しいのは寂しい。

 ベッドや衣服からシトラスの香りはするけど、紅くんの温もりはない。

 再会してからも1人で眠ることはよくあったけど、無期限なのは初めてだ。

 それが寂しさを増長させる。

 紅くんたちは命懸けで戦っているのに、こんなことで落ち込む私が嫌。



 ───茜、行ってきます。



 そう言いながらここを去るとき、私を安心させるために紅くんは笑っていた。

 だから私も笑顔を返したんだ。一番新しい記憶を元気な私にしておきたくて。

 あんな強がりは辞めてぎゅうぎゅうに抱きついとけばよかったのかな。

 そしたら今、枕が濡れてないのかな。