次の日、紅くんは朝早くから家を出ていった。

 定期報告会が終わったから領地の状態を直接確認しに行くらしい。

 出来るだけ遠くの方から視察するという。

 そのせいでおはようのキスしかできなかった。


 いや逆にそれでよかったのかも。


 私の心には『婚約者』と『鈴井雛菜』という単語が、一晩たってもくすぶっていた。

 かつては紅くんの婚約者として、違う女の子が隣にいたのかな。



 ───考えただけで吐きそう。



「ねぇ、2人は鈴井雛菜って知ってる?」



 朝食後に撫子と長春に訊いてみたら苦虫を噛み潰したような顔をされた。



「あー・・・何となく、ですかね。若の元婚約者だとか?」

「その人は俺たちが本格的に活動を始めたときには既にいなくなっていたので、あまり詳しくないんです」

「そうなんだ・・・」



 また"いなくなった"という言い回しをされた。