「……しっ……知ってます。」

 お店の中に何処にも居ないと思ったら、どうやらどこかに隠れて居たらしい。

 私は慌てて、録画停止のための赤いボタンを押した。

 間抜けな停止音がポコンと鳴って、どうやら挨拶の声だけ掛けてから通り過ぎようとしていた冬馬さんの気を引いてしまったらしい。

「え。なになに。写真なんか撮って。俺のカフェを紹介してくれるの? 嬉しい。助かるよ。最近は写真映えを重要視する子が多くて、インテリアにもかなり気を使っているから」

「はい……もちろん。最高の夜カフェだって、紹介します」

「都内で最高?」

「国内で最高っていう宣伝文句にしましょう……あ。冬馬さん、また良い匂いする。なんだか、美味しそうなにおい……」

 また冬馬さんからうっとりするくらい、美味しそうな甘い匂いがして、私は自分では見えないけどとろけた顔になっていると思う。

「……そう? さっきまでケーキを仕込んでいたから、バニラエッセンスの匂いが付いたのかもしれない」

 自分の服を摘んで匂いつつも、冬馬さんは当人だから匂わないのか、不思議そうな顔をしていた。こんなに良い匂いなのに。