「あ。待って。まゆちゃん。動かないで」

 私は彼の唐突な言葉に首を傾げると、冬馬さんは跪いて私のスニーカーの靴紐を結んでくれた。

 どうやら片方だけ、靴紐が解けてしまっていたらしい。

「わ。なんだか、お姫様みたい。ありがとうございます……」

 ピンチを救ってくれたイケメン王子様にかしずかれるなんて……今までにやって来た過去の善行が、大事なところで火を吹いてくれたのかもしれない。

 会社では室内履きに履き替えるので、遅刻寸前だった今日はパンツスーツにスニーカーだ。

「スニーカーのお姫様? 良いね……お姫様にしては、靴下が色違いだけど」

「え! 嘘! それは、みっ……見ないでください!」

 何年物の悩み事を解決してもらった後、遅刻寸前で慌てて身支度をしてしまったがために、靴下を左右色違いで履いているという事実を出会ったばかりのイケメンに知られてしまう悲劇に見舞われた。

 幸運不運は……いつか人生の中で帳尻が合うように、出来ているのかもしれない。

 なんとなくだけど、私はその時にそう思った。