迷宮階段

「あら、パンやお弁当だって誰かが手作りしたものじゃない。なにが悪いっていうの?」
「母親の味を食べさせてやれって言ってるんだ」

「なに言ってるのよ。あなた、自分の稼ぎが少ないか食費にかけられないだけでしょう?」
 その言葉にお父さんが黙り込む。

 夕飯の中華弁当を思いだし、それが引き金になったのだとすぐにわかった。あれは美味しかったけれど、たしかに高級だった。
「実はまた給料が減るんだ」

 お父さんの声が聞こえてきたかと思うと、やけに弱々しい。さっきのは図星だったみたいだ。
「知らないわよそんなの」

 お母さんはすぐに突っぱねている。なにかを考えることが面倒なのかもしれない。
「そんなこと言わずに、お前も手伝ってくれよ。これから先も真美を育てなきゃいけないんだから」