迷宮階段

☆☆☆

 別れたくなんてなかった。本当は泣いてすがって引き止めたかった。
 だけのあの状況じゃそんなことできない。私にはああして別れを告げることしかできなかった。

 女子トイレの個室に入ると堪えきれずに涙が溢れ出してきた。次から次へと溢れ出してくる涙に、子供みたいに声を上げて泣く。

 海人とは中学に入学してから知り合って、付き合い始めた。
 互いに初めての恋人ということでなにもかもがぎこちなくて、なにもかもが新鮮だった。

 初めて手をつないで帰った日。私達の間に会話はあまりなかった。恥ずかしくて目を合わせることもなかったかもしれない。けれど繋がれた手だけはいつまでも離さずにいた。

 初めて休日デートしたときもそうだった。
 私は張り切ってサンドイッチのお弁当を作って行ったんだけれど、恥ずかしくてなかなか切り出すことができなかった。

 それで昼を過ぎた頃にようやく二人並んでベンチに座って、サンドイッチを食べたんだ。海人は美味しい美味しいと何度も言ってくれて、あっという間に食べ終えてしまった。