迷宮階段

 麻衣の言葉は信じられないものだった。普通考えられない。
 彼氏はものじゃないんだから、あげられるものじゃない!

 だけど、麻衣の周りにいる友人たちはなにも言わない。まるで他人事みたいにことの行方を見守っているだけだ。
「まぁ、彼氏くらいいくらでもできるんだからいいんじゃない?」

 友人の一人、小野香にそう言われて私は他のみんなへ視線を移動させた。みんなもその意見に同意しているみたいだ。
 きっと麻衣はいつもこんな子だったんだろう。自分が気に入ったものは絶対に手に入れる。そんなタイプだ。だからこんな修羅場も珍しくないんだろう。

 私は最後に海人を睨みつけた。
 海人は麻衣に腕を組まれて照れたように頬を赤くしている。そんな海人の胸をひとつ叩いた。

「あんた、最低。こんなに最低な男と別れることができて、私は幸せ者だよ」
 そう言い放つと、教室から逃げ出したのだった。