青谷中学校二年A組の教室はまだ登校してきている生徒が少なく、さざなみのような私語しか聞こえてこなかった。
「真美、おはよー」

教室に入ってすぐに声をかけてきてくれたのは一年生の頃からの友人、村田里子だった。
里子小柄ではおかっぱ頭がよく似合っている。

「おはよう里子。今日も早いねぇ」
バス通学の里子は学校に到着するちょうどいい時間帯のバスがないということで、いつも教室に一番乗りだった。

「一本遅らせることもできるんだけど、そうするとバスの中満員で、座れないんだよね」
里子は眉を下げてそう答える。立って乗っていると時々貧血を起こしてしまうらしい。

「それより真美、昨日のテレビ見た?」
「クイズ番組でしょ? 見た見た!」

話が盛り上がってきたところに、教室前方のドアが音を立てて開いた。
「みんなおはよぉ!」

入ってきた瞬間大きな声でそう言ったのは桃尾麻衣だ。麻衣は長い黒髪を頭のてっぺんでお団子にして、少し派手なメークをしている。