軍隊の行進が終わってからも、彼らの威圧感と冷たい雰囲気に私とリークは圧倒されていたのだった。

「…すごかったな」
「ええ…戦争が近いのかしらね」

 リークが床に目線を落とし、うつむいた。そんな彼の手を私は両手で優しく握る。

「帰りましょう、リーク」
「…うん」

 水鏡でリークの家へ転移する。転移して家の中庭に到着すると、リークが溜めこんでいたものを一気に吐き出すようにふーっと大きく息を吐いた。

「帰って来れた…」

 そう感慨深げにつぶやくリークに、私はにこやかな微笑みを見せた。

「良かったわね、リーク」

 この日の夕食はシチュー。畑で取れた野菜をザクザクと切って、シチューを作ってみると、ごろごろとした食感が癖になる。更にポトフに続いてお腹が温まっていくのはとても良い事だ。

「リークの作るご飯はとても美味しいわ」

 なんだかんだでリークの作る食事を食べている時が一番幸せに感じているかもしれない。味わいは勿論の事リークの作る食事を食べていると、自然と精神が落ちつくような気がするのだ。

「ナターシャにそう言ってもらって嬉しいよ」
「ほんと?」
「ナターシャが作る料理は好きだ。腕も上げていってるし」

 そうリークから言われると、なんだか妙に顔が紅潮するのを覚える。

(なんかそう言われると恥ずかしいな…)
「顔赤いぞ」
「え」

 リークに指摘されると更に、顔の頬の熱さが増す。

「熱でもあるのか?」
「いや、無いと思うわ。寒気もしないし」
「そ、そうか」
「そ、そうね…」

 だがこれだけは言える。後宮でも、モアとしてもこのような穏やかなやり取りは無かった。それゆえに今この時間がとても有意義に感じている。