___21時。

お母さんが気合を入れて作ってくれた夕飯を食べ終わり、一度家に荷物を取りに帰った流くんが帰ってきた。



「お……おかえり、流くん」



おかえりだなんて、一緒に暮らしてるみたいで恥ずかしいのに……!

おかえり、以外の言葉が見つからなくて、そう言うしかなかったのだ。



「……なんか、俺ら夫婦みたいっすね」


「ふっ……!?」



ふ、ふ、夫婦……!?

流くんは私が照れているのを面白がるように、「ほらほら」と何かをせがんだ。




「ご飯にする?お風呂にする?のやつ、やってくれないんですか」



そう言ってニヤリと意地悪く笑う流くん。

な、な、なっ……!そんなの、漫画でしか見たことないよ!


渋る私を、流くんはじっと見て待っている。


うぅ……こんなの言うしか……。





「ご、ごはんにする……?お風呂にする……?」



「ふはっ」



「なっ……!」



なんで笑うの……!?恥ずかしかったのに、さらに恥ずかしさで顔が真っ赤になる。



「一緒に住んでるの、なんか想像ついた」



「っ……」



なんだか、今日の流くん、少し様子がおかしいよ……。



「風呂はもう入ってきた」



そっか、一旦自分の家に荷物を取りに行ったついでに入ってきたんだ。



「じゃあ、私お風呂入ってくるね。私の部屋で待ってて」


「はーい」





___ちゃぷん。


あったかい……。

髪と体を洗い終えた後、ゆっくりと湯船に浸かる。
この時間は落ち着くから、1番好きだなぁ。


そんなことを考えていると、ふと思う。


身内以外の人を自分の部屋に入れるのって、優太以外初めてかもしれない。



小さい頃、優太とはよくお泊まりをしていたから知っていると思うけど、高校生になってから3年間、めっきりそんな機会などなくなったのだ。


さ、さすがに同じベッドでは寝ないけど、寝る時はそばに流くんがいて、朝起きた時も、そばに流くんがいるんだ。



そう考えただけで胸の内側がくすぐったくて。



のぼせてしまいそうなくらい、幸せな気持ちだった。






___でも。





大学に合格したことと、急にお泊まりすることになったりと、目の前のことに集中しすぎて意識ができていなかったけど……。





「流くんと、離れ離れになるんだなぁ……」




家を出ていくのは、三月の中旬。だから、それまであと一ヶ月ほどしか残っていないのだ。


その一ヶ月はきっと、すごく楽しくて、でも寂しくて短い時間になることは自分でも容易に想像できた。


都内の大学に行くんだからり当たり前だ。そう簡単には会えなくなるんだ。




そう考えると、少しだけ……いや、かなり寂しくて。




毎日のように聞いていた流くんの優しい声も、あったかい体温も、すべてが感じられなくなっちゃうんだ。




ポタン……




いつのまにか溢れた涙が、湯船に落ちて波紋が広がっていった___。