海花 side




「な、流くん……明るいから……見られちゃうよ」


「そーですね」



そーですねって……。

さっきなんて、外だってことを忘れてるんじゃないかってくらい、たくさんされたキス。


誰かに見られちゃったらどうするの、そう怒るのをぐっと我慢して、今一番伝えなければならないことを伝えると、流くんは強く私を抱きしめた。




___うん。よかった。



そんな短い言葉とともに。




「流くん」



「ん?」




名前を呼べば、返事をしてくれる。そんな状況が、なんだかたまらなく嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。


流くんとは、これからも一緒にいたいし、一緒にいろんなところへ行きたい。


些細なことで笑い合いたいし、たくさん話したい。





___だから、今でもいいかな。そう思った。





「家、入る?」




そう言えば、案の定、流くんはぴくりと反応した。抱きしめられてるから、流くんの顔は見えないけれど。


きっと驚いているだろう。





「今ね、家にお母さんがいるの。……お父さんは、もう死んじゃったけどね」





お父さんが病気で亡くなっちゃってから、一人で私を育ててくれたお母さん。

学費を払ってくれて、私に定期的にお小遣いもくれて。

バイトするよ、そう言っても、お母さんは「いいのよ」そう言って笑っていた。



たった一人の、私の大好きなお母さん。


___だからこそ、お母さんと会って欲しい。紹介したい。





「きっと、流くんのこと、大好きになると思うの」





流くんは、ゆっくりと私と離れる。そして、少し緊張したような面持ちで、迷っているようだった。





「……や、俺今……金髪、ですし……制服だし……」





また後日でも……とか、ゴニョゴニョ言っている流くんに、くすっと笑いかけた。





「受け入れてもらえるか不安?」




「っ、はい……」





子犬のように、しゅん、と耳が垂れ下がるように落ち込む流くん。





「たしかに流くん、金髪だし、不良みたいだし、頑固だし」


「ぅ……」


「でも、私が大好きな人だよ」




たくさんいる女の子の中から、こんな私を選んでくれた人。

そして、私が選んだ人。



お互い、好きって気持ちが重なって、両思いになって、付き合った私たち。



それって、奇跡だと思う。



私のお父さんとお母さんも、その小さな奇跡を掴んで私を産んでくれたから。



だから私も、流くんをお母さんに紹介したい。






「このままでいいんですか……?」





こくこくと頷くと、流くんは少し考えた後、覚悟を決めたようにしっかりと頷いた。