恋神様に願いを込めて

「そうなのね…。恋ってよくわからないから、したいなんて思ったことないの」


「僕もそういうタイプでした。でも、恋に落ちるのって一瞬なんです。ちょっとした言動でその人が特別に見えちゃって、優しい気持ちになれる。気づいたら、恋に変わっているものなんですよ」



佐野くんは、もしかしたら誰かに恋をしているのかもしれない。


恋する人達の好きな人を想う横顔と、佐野くんの優しく微笑んだ横顔が重なった気がしたから。



「…私も恋、してみたいかも」


「え?」


「な、なんでもないわ!」



佐野くんがあまりにも優しく笑うから、そんな風に誰かを想える体験を私もしたいなんて思った。


そんな自分の気持ちの変化に驚く。



「休憩はもういいでしょ!そろそろ戻りましょ」


「そうですね」



そのあとも黙々と生徒会室で佐野くんの手伝いをして、帰る頃にはすっかり外は暗くなっていた。



「こんな時間まですみません。家まで送ります」


「ううん、大丈夫よ。すぐそこに父の秘書の方が車で迎えに来てくれているから」


「そうなんですか。今日はありがとうございました」