男が驚いたのが伝わったのだろう、隣室の男は少し恥じ入るように述べた。
「娘や孫たちが、貼っていくんですよ。何かの度に、色々持ってくるんで、もう壁に空きがなくて困っています。」
そして少し声を落とし、切なそうに言葉を続けた。
「亡くなった妻が、記念日や祝い事を大切にする奴だったんです。子ども達もそれを真似するようになって……。
私自身は、何もする方ではなかったんですけどね。妻は、別にお返しがほしいわけではなく、祝いたいから祝うんだと、そういうやつでした。
とても情の深い、でも子どものように純粋な、自慢の妻だったんです。」
楽しくもない自慢話を聞かされ、男は辟易した。
早く退室したいと思いながら、ふと、隣室の男が愛おしそうに見つめる先に目をやると、そこには、古い結婚写真が引き伸ばして飾ってあった。
男は写真に写る女性の姿を見て、何かを思い出したかのように、刻印を確認した。
――アメリア・ローズ
かつての婚約者の名前であった。