私は絵本から剥がしてスマホケースの裏側に貼り付けたマスキングテープのメッセージを、改めて見た。
 ……やっぱり、この斜めに傾きがちな癖のある字は、陽之木くんのものだ。
 この分だと、さっきのメッセージを送ったのも陽之木くんなのだろうか。
 陽之木くんは、わざわざ霊界から私に何か言いたいことがあって、こんなメッセージを……? そんなバカな。

「いらっしゃいませ」

 突然聞こえた声に、思わず肩を跳ねさせた。
 見ると受付の中から、ウキウキボウルのロゴが入ったポロシャツを着る店員が、優しい笑顔でこちらを見ていた。

「……あ」

 この人、知ってる。

「久しぶりだね」

 その低い声と耳にたくさんついたピアスの既視感に、朧げだった記憶が蘇る。
 そうだ。 陽之木くんとここへ来たときにも会った。

「依田くんの、お兄さん」
「正解~! ヒロキの兄のマサキでっす」

 陽気な声でパチンと指を鳴らしたマサキさんは、あの日も同じように自己紹介をしてくれた。
 陽之木くんはバスケ部後輩の依田ヒロキくんのツテでマサキさんとも仲良くなって、マサキさんがバイトするこのボウリング場にはバスケ部のみんなでよく来るんだと、嬉しそうに話していた。
 マサキさんの目の下に酷いクマがあって、陽之木くんが事故に遭ったのがここで遊んだ帰りだったことを思い出す。 
 私はそれを見なかったことにして、ご無沙汰してますと頭を下げようとした。
 が、叶わなかった。

「ちゃんと来てくれてよかったよー! はい、シューズね。 23センチで合ってる?」

 悲壮感などどこへやら、マサキさんはハイテンションでカラフル過ぎるシューズと伝票を私の手に持たせた。