翌日からまた通い始めた学校は当たり前に“普通”で、親友も担任もクラスメイトも全てを忘れていた。

あの子は教室の隅のほうで“親友”と一緒に雑誌のページをめくっていて、「またあのパフェ食べに行こうよ」とか楽しそうに喋っている。

教室ですれ違っても、私達は挨拶を交わす程度になった。
それで十分だったし、友達は幸せになれたって思った。

それからすぐに夏休みに入った。
去年と成績は大して変わらない。

たまに友達と遊んだり、嫌々言いながら図書館で宿題をやっつけたりしながら過ごした。

春華はこの世界での初めての夏に、毎日「ヨヅキの願いを叶える前に死んじゃったらごめんね」って嘆いた。

この世界の夏は体に悪いらしい。

私が小さい頃よりも地球はどんどん温暖化が進んでいて、十度以上も平均気温が上昇している。

でも春華の世界の夏はこんなに暑くないらしい。
そもそも汗をかくことなんて滅多に無いみたいで、私はそっちのほうがよっぽど体に悪そうだって思った。

夏休みはあっという間に過ぎていった。
いつもの体感の二倍くらいのスピードで一日が終わっていく。

アインシュタインが唱えた相対性理論のどうのこうの。
楽しい時間と嫌な時間は進み方の体感が違うって。
彼は天才だ。

夏休みだけじゃない。
春華がうちに来てからずっと私は相対性理論みたいな毎日を過ごしている。

日々、想像もつかないことが次々と起きては圧倒されている。
春華は私が知らなかったことや、これから先も絶対に知り得ない未来のことを沢山教えてくれた。

私の毎日は春華によってこんなにキラキラ輝き出したのに、彼が居なくなってしまったら嫌なほうの相対性理論の始まりだ。

今のうちに何か趣味とか夢中になれる物を見つけておこうかなって思ったけれど、それも無意味な気がする。

何かを見つけたとしても、春華を忘れた後でそのことすら憶えているか分かんないんだから。