「でもいつしか世の中は綺麗じゃないことばかりが多くなった。願いは憎しみや復讐が増えていった。だから嫌な願いを叶える時は反対に短くなる。もしくは…失敗した時。爪ってさ、変な言い方だけど、”人体過ぎる“だろ?違和感が無いんだ。誰の日常の中にも当たり前に存在してるから」

「それに…」って言って春華はおかしそうにクスクス笑った。

「もー、また笑うの?何?」

「おまじない好きなんだ。うちのリーダーは。だから俺達にもこういう機能っていうか…そういうのを与えたんだよ」

「おまじない好きって現代みたいだね。そんなことしなくても春華の世界なら…」

「俺達はさ、大昔の書物も読むことができるんだけど、今よりもう少し前におまじないが沢山載ってる雑誌が流行ってたんだって」

「あー、なんとなく知ってるかも」

「それを見てハマったんだってさ。信ぴょう性の無いおまじないに男女の恋を賭けるのも可愛いし、勉強ができるようになりますようにとか、明日おいしい物が食べられますようにとか。俺達の世界よりもこの時代は純粋で愛らしい願いが溢れてる。それにさ、人間はいつの時代も願いから逃げられないって」

「本当だね。人間が消えて無くならない限り、世界から願いは消えない」

「叶えるのが億劫になる願いも沢山叶えてきたんだ。リーダーは特に…。だからちょっとでもおかしなことやらなきゃしんどかったんじゃないかな。俺もけっこう気に入ってんだ。目に見えてれば自分が何者なのか忘れないでいられる」

「そっか…。可愛いんだね、リーダーさん。女子高生みたい」

「あれ、言ってなかったっけ。リーダーは女性で、可愛い物好きなんだ」

「えっ、そうなの?勝手にイカついおじさん想像してたよ」

「あはは。それ聞いたらリーダーはショックだろうな」

春華が楽しそうに笑う。

声変わりした声。
だけど表情はまだまだあどけない。

春華は大人になっていく。
それに比例して、私も大人になる。

本当に大人になった春華はどんな顔で笑うんだろう。
どんな声で、口調で私の名前を呼ぶんだろう。

私の名前をあと何日憶えていてくれるだろう。

その日から私もこっそり左手人差し指の爪を伸ばし始めた。
“目印”が分かるようにクリアのネイルも塗ってピカピカにした。

好きな人と同じだっていう優越感。
春華が居た証拠。
私のおまじないだ。