「ヨヅキ、帰ろう」
「帰れるわけないじゃん」
「じゃあちょっと公園で話そうか」
春華が繋いでくれた手の平をギュッと握り返した。
止まったはずの涙がまたぶり返す。
「泣き虫だなぁ」って春華は笑った。
手を繋いだまま二人でベンチに座った。
今日はやけに空が赤い。
こんなに綺麗な夕焼けなのに私の心は動かない。
「何があったの?」
「学校を辞めるって言ったの」
「ヨヅキが?なんで?」
「友達が私と、親友のせいで疎外感を感じてて。学校に行くのがだんだん億劫になってたんだって。それで退学することに決めたって」
私は一部始終を春華に話した。
教室の空気感も、担任の言葉も、クラスメイト達の視線、結果的に私は親友に押し付けて、親友を孤独にして逃げたってことも。
「ヨヅキのせいじゃ無いのになんでヨヅキが辞めるの?」
「だからっ…それは何回も…!」
「ヨヅキのせいじゃないんだからそんなことで辞めなくったっていいじゃん」
「そんなことで辞めたくなっちゃうくらい私達にとっては重要なことで、だけど簡単なことなんだよ。逃げて、ハイおしまい。あとはみんなが忘れてくれるのを待つだけ。私、ズルいの」
「なんでヨヅキがそこまでしなきゃいけないんだよ。それに“簡単なこと”なんかじゃないだろ?ヨヅキの人生がかかってんだから」
「イジメをするような人間と同じレッテルを貼られるくらいなら高校なんてどうでもいい」
「じゃあさ、制服を着なくなったヨヅキは何になるの?」
「何に…って…何それ?私は私でしょ?どうなったって私は私だよ!」
「そうじゃなくて、制服を着て学校に通えるのも“今のヨヅキ”の特権かなって思って。もうそれができなくなったあとに懐かしんだり後悔したりしても時間は取り戻せないんだよ」
「なんで怒るの…なんで味方で居てくれないの?春華も私を責めるの?」
「怒ってないよ。ヨヅキ」
子どもをなだめるみたいな顔。
我が儘を言って春華を困らせたいわけじゃない。
でも今は、春華にだけはただ、ただ味方で居て欲しかった。
「私は敷かれたレールの上でしか正しい人間になれないの?」
「そういう意味じゃなくて。ヨヅキがどんな道を選んだってしっかり生きていけるって俺だって信じたいよ。でもさ、この時代のことは俺にはよく分かんないけど…学校って場所は俺達の世代にとって重要な場所なんだろ?ヨヅキのお姉ちゃんだって、そうじゃなきゃそこまで思い詰めること無かったはずだから。今のヨヅキもそうだろ?学校なんてどうだっていいって、人生の中では取るに足らないことだって思えれば、逆に辞めたいとかクラスでの立ち位置とか気にしないで居られるんじゃないかな」
「…そうだね。私達は見たことも無い未来を、先に見てきた大人達の″こうあるべきだ″って言葉を信じて委ねてる。高校は卒業してたほうがいいとか、学歴は高ければ高いほどいいとかね。でも人間性ってそれだけじゃ分かんないじゃん。どんなに学歴が高くてもお姉ちゃんの人生を壊した人達みたいな人間だっているんだから…。私だって退学して絶対にダメになるなんて分かんないじゃん」
「ヨヅキは今の学生で居られる肩書を無くして、今よりもっと苦しい未来が待っていても耐えられる?敷かれたレールを逸れたって成功する人は当たり前に居るし、誰よりも幸せになれてる人も居る。でも痛いくらいの努力が必要なんじゃないかな。俺はヨヅキを信じたいよ。絶対に大丈夫だって信じてあげたい。でもね、ヨヅキ。本当はどうしたい?退学することが一番いい選択肢だってヨヅキは思ってないと思うんだ。だってヨヅキは優しいから」
春華の目を見ていると全部を見透かされている気持ちになる。
春華が不思議な力を持っているからじゃ無い。
私の気持ちを汲み取って理解しようとしてくれている優しさを感じた。
虚勢も綺麗事も全部がちっぽけだ。
「帰れるわけないじゃん」
「じゃあちょっと公園で話そうか」
春華が繋いでくれた手の平をギュッと握り返した。
止まったはずの涙がまたぶり返す。
「泣き虫だなぁ」って春華は笑った。
手を繋いだまま二人でベンチに座った。
今日はやけに空が赤い。
こんなに綺麗な夕焼けなのに私の心は動かない。
「何があったの?」
「学校を辞めるって言ったの」
「ヨヅキが?なんで?」
「友達が私と、親友のせいで疎外感を感じてて。学校に行くのがだんだん億劫になってたんだって。それで退学することに決めたって」
私は一部始終を春華に話した。
教室の空気感も、担任の言葉も、クラスメイト達の視線、結果的に私は親友に押し付けて、親友を孤独にして逃げたってことも。
「ヨヅキのせいじゃ無いのになんでヨヅキが辞めるの?」
「だからっ…それは何回も…!」
「ヨヅキのせいじゃないんだからそんなことで辞めなくったっていいじゃん」
「そんなことで辞めたくなっちゃうくらい私達にとっては重要なことで、だけど簡単なことなんだよ。逃げて、ハイおしまい。あとはみんなが忘れてくれるのを待つだけ。私、ズルいの」
「なんでヨヅキがそこまでしなきゃいけないんだよ。それに“簡単なこと”なんかじゃないだろ?ヨヅキの人生がかかってんだから」
「イジメをするような人間と同じレッテルを貼られるくらいなら高校なんてどうでもいい」
「じゃあさ、制服を着なくなったヨヅキは何になるの?」
「何に…って…何それ?私は私でしょ?どうなったって私は私だよ!」
「そうじゃなくて、制服を着て学校に通えるのも“今のヨヅキ”の特権かなって思って。もうそれができなくなったあとに懐かしんだり後悔したりしても時間は取り戻せないんだよ」
「なんで怒るの…なんで味方で居てくれないの?春華も私を責めるの?」
「怒ってないよ。ヨヅキ」
子どもをなだめるみたいな顔。
我が儘を言って春華を困らせたいわけじゃない。
でも今は、春華にだけはただ、ただ味方で居て欲しかった。
「私は敷かれたレールの上でしか正しい人間になれないの?」
「そういう意味じゃなくて。ヨヅキがどんな道を選んだってしっかり生きていけるって俺だって信じたいよ。でもさ、この時代のことは俺にはよく分かんないけど…学校って場所は俺達の世代にとって重要な場所なんだろ?ヨヅキのお姉ちゃんだって、そうじゃなきゃそこまで思い詰めること無かったはずだから。今のヨヅキもそうだろ?学校なんてどうだっていいって、人生の中では取るに足らないことだって思えれば、逆に辞めたいとかクラスでの立ち位置とか気にしないで居られるんじゃないかな」
「…そうだね。私達は見たことも無い未来を、先に見てきた大人達の″こうあるべきだ″って言葉を信じて委ねてる。高校は卒業してたほうがいいとか、学歴は高ければ高いほどいいとかね。でも人間性ってそれだけじゃ分かんないじゃん。どんなに学歴が高くてもお姉ちゃんの人生を壊した人達みたいな人間だっているんだから…。私だって退学して絶対にダメになるなんて分かんないじゃん」
「ヨヅキは今の学生で居られる肩書を無くして、今よりもっと苦しい未来が待っていても耐えられる?敷かれたレールを逸れたって成功する人は当たり前に居るし、誰よりも幸せになれてる人も居る。でも痛いくらいの努力が必要なんじゃないかな。俺はヨヅキを信じたいよ。絶対に大丈夫だって信じてあげたい。でもね、ヨヅキ。本当はどうしたい?退学することが一番いい選択肢だってヨヅキは思ってないと思うんだ。だってヨヅキは優しいから」
春華の目を見ていると全部を見透かされている気持ちになる。
春華が不思議な力を持っているからじゃ無い。
私の気持ちを汲み取って理解しようとしてくれている優しさを感じた。
虚勢も綺麗事も全部がちっぽけだ。



