二人の永遠がこの世界になくても

「ママさん!やめて!」

物音に気づいた春華が二階から駆け降りてきて、ママと私の間に入った。

それでも私に掴み掛かろうとするママを春華が抑えてくれる。

「ママさん!これ以上は…ママさん!」

「出ていけ!お前なんて!!!帰ってくるな!!!」

リビングを飛び出した私の背中にママの罵声が飛んでくる。
色んなことがフラッシュバックして、ママの声がずっと耳の奥に張り付いている。

外に出てがむしゃらに走った。
何もかもを振り払うように滅茶苦茶に走った。

「ヨヅキ!ヨヅキ!!!」

雑に履いた靴が脱げて、バランスを崩した私はアスファルトの上で派手に転んだ。

痛みは感じない。
こんな痛み…全然痛くなんか無い。

「ヨヅキ!大丈夫!?見せて」

うずくまる私の膝を見て、春華が羽織っていたシャツを脱いで私の膝に巻いた。

「汚れちゃう…」

「いいんだよ。シャツ羽織ってて良かった。Tシャツだけだったら裸になってたよ」

春華はおどけて笑って見せた。
その瞬間に私はダムが決壊したみたいにボロボロと泣き出してしまった。

「あーあー、もう」

春華は慌てて手で涙を拭おうとしてくれたけれど、吸い込むわけも無く、涙は頬を伝って流れ落ちる。

ふわっと春華の匂いがした。
私の頭を抱えるようにして抱きしめられる。
春華のTシャツに私の涙が染み込んでいく。

赤ちゃんみたいに背中をトントン、ってされて、私はしゃくりあげながら泣き続けた。

近所の人達が通り過ぎるたびに怪訝そうに見ていったけれど、何も気にならなかった。

このまま消えてしまえればいいのに。

私を殺して欲しい。
春華にそうお願いしたら、春華は力を使ってくれるかな。

春華になら殺されてもいい。
私の為に重要案件を犯してくれたらそれだけで私は救われる。

そんなこと、大切な人に頼めるわけないよ…。