それから春華はいくつもの願いを叶えていった。
沢山の人と出会ったけれど、誰の中にも春華の記憶は残っていなくて、春華のそばに居続けたのは私だけだった。

何度私のそばで春華が願いを叶えても、私の記憶は消えなかった。

不思議に思ったけれど、ママの記憶だって消えていないから、いつしかあんまり気にしないようになっていった。

春が来て、私は高三になった。
数えきれないくらいの願いを叶えてきたけれど、春華は一度も失敗しなかった。

このままスムーズにいけば、春華は今年の冬には元の世界に戻れるんじゃないかって思った。

私と春華の関係は平行線のまま、私の想いだけが確実に大きくなっていた。

春華が誰かの願いを叶えるたびに、「私の記憶まで消えちゃいませんように」って心で願って、
私に優しく笑いかけるたびに必ず来るお別れを思って泣きたくなった。

高三の始業式を迎えるちょっと前、四月三日。
春華は十五歳になった。
私との差が期間限定で一つ縮まった。

「あっちの世界でも時間の進み方って同じなの?」

「そうだと思うけど」

「じゃあきっと誰かが春華の誕生日を想ってるかもね。大切な人とか…」

「んー、うん」

今まで聞かないようにしていたけれど、今でも春華の“大切な人”のことはちゃんと聞く勇気が無い。

どうせ春華を忘れてしまうのならそんなこと知らなくていいと思う。
今だけは、もしかしたら私は特別かもしれないって思っていたかった。