私は去年のクリスマスイブの日、ふと我に返ると一人で大通り裏の公園に佇んでいたことがある。

イブだし友達とイルミネーションを見に行く約束をしていたのかもしれない。
でもメッセージアプリを確認してもそんな会話は見当たらないし、うちに帰って数時間は気にしていたけれど、特に誰からの連絡も無かった。

あの日、私は一人で何をしていたのだろう。
帰宅した私を見ても、ママだって特に何も気にかけなかった。

あの日に置き忘れてきた何かがある気がするけれど、それを思い出してもたぶん、どうにもならない。
私は未来にしか進めない。
過去には戻れない。

それに「記憶喪失かもしれない」なんて、ママにだって話せない。
やっと安定してきたんだから。
このまま平穏に生きていこう。

だけど一つだけ、これだけはどうしても取り戻したい物があった。

私にも当たり前に、ただ日常に在ったはずの″家族″だ。

大学生になったら家を出ようとも思ったけれど、ママとパパが離婚して、お姉ちゃんも家を出てるしママを一人にするのは心配で、実家から通うことに決めた。
私が居なくなってもママは案外平気でやっていけるかもしれない。
でも私はもう逃げたくない。

周りに誰も居なくなった、これで自分がダメになってしまったらもう生きていくすべが無いなんてそんな風には思って欲しく無かった。
大袈裟かもしれない。
それでもママのメンタルはまだまだ危うい。それは私も含めてだった。

まだ生きている。
言葉を交わす。手を取り合うことが私達にはできる。
ならもう逃げない!

階段を降りてリビングのドアの前で深呼吸した。
夜の十時。明日は卒業式だから早く寝なくちゃ。でも話をするなら今日しかない。