呪われし森の魔女は夕闇の騎士を救う

 さて、それからの2人だが、まず、マールトとフランシェの結婚式に参列をし、それからエーリエは正式にノエルの婚約者になった。

 彼女は変わらず森で過ごしていたが、週に一度王城に赴き、未だに誰にも読まれない古代語の書物を翻訳する仕事も請け負うことになった。人と話すことは相変わらず少し苦手だが、翻訳の作業をしている間は誰にも邪魔をされないような個室を用意してもらえるし、何より新しい書物を読めることは彼女にとっては嬉しいことだった。

 ノエルもまた変わらず第二騎士団長として日々忙殺されているが、エーリエが王城に来る時には出来るだけ時間をとって、共にユークリッド公爵家で夕食をとることにした。とはいえ、それはそれ、これはこれ、とばかりに、今でもそっと仕事の合間や何かにつけて、彼は森に訪れ、エーリエの家で茶を飲むことを忘れない。

「エーリエ」
「ノエル! いらっしゃい! ちょうどさっきケーキが焼き上がったの」
「そうか。これ、遠征先で買って来た茶葉なんだが……」
「まあ。それじゃあ、このお茶を淹れましょう」

 何気ないやりとりの後、エーリエは茶を淹れに奥の部屋に入っていった。その背を見送って、ノエルは椅子に座った。

「……変わらないな」

 まるで初めてこの家に来たあの日のようだとノエルは思う。そして、あの日には既に、自分はこの森の、このあまり大きくない家で、エーリエと共にいることを好ましく思っていたのだと思い出す。そして、初日には茶を飲まなかったことまで思い出し、ふと口をほころばせた。

「お待たせして……んっ、何かおかしなことでもありました?」
「ああ、いや、なんでもない」
「ええっ? どうして笑っていたんです?」

 エーリエはにこにこ微笑みながら、ティーポットから茶をカップに注いだ。

 ああ、そうだ。彼女は今は自分の顔を見られるけれど、それは最初からではなかったのだ。変わらないと言っていたが、自分たちは大きく変わったのだ……ノエルはそう思い、再び頬を軽く緩めて

「君と出会えてよかったと思って」

と告げた。

 突然の言葉にエーリエは驚いた表情になり、それから頬を赤くして目を瞬かせてから

「わたしもですよ」

と答え、彼の前にティーカップを置いた。エーリエは、変わらず柔らかい笑みを浮かべていた。