「こんなわたしでも良いんでしょうか。わたし、何もノエル様にお返し出来ません……」
「何を言うんだ」

 ノエルは、ふふ、と小さく口の端をあげた。その柔らかい笑みに、エーリエは胸を射抜かれる。

(ずるいです! そんな、そんな素敵なお顔で……!)

「何かを貰えるから、という理由で、君を選んだのではない。それに、もしそうだとしても、君には一生分のものをもらっているのに。何一つ、わたしに返すことなぞ考える必要はない」

「ノエル様」
「わたしと、共に生きてくれないか」
「ああ……わたしが、誰かと一緒に生きられるなんて……思ってもいませんでした……」

 エーリエはそう言うと、目の端に涙を浮かべながらも微笑んだ。ノエルはそれを見て

「最近、君はよく泣くが、それは悲しみの涙ではないんだろう?」

 と穏やかに問いかける。

「はい。嬉しくて……ノエル様、わたしもノエル様と共に生きられたら嬉しいと思っています……その、そのう……その指輪、を、いただいても、良いんでしょうか?」

 言葉をうまく選ぼうとして、うまく選べない。だが、その様子も可愛いと言いたげに、ノエルは小さく頷く。

「手を出して」
「はい……」
「君の指に合うと思うんだけれど……どうだろう……」

 そう言って、リングをエーリエの指にはめるノエル。エーリエは、ノエルの手が自分の手に触れてからというもの、息をじっとひそめてなりゆきを見守っていたが、リングをはめて彼の手が離れた瞬間「ふはっ!」と小さな声をあげた。

「まあ! まあ! わたしの、小さな手でも、リングをはめると女性らしい手に見えるものですね……! とても可愛い……そして、とても嬉しいです。ノエル様」

 そう言って、ふにゃりと笑みを浮かべれば、ノエルは口を手で押さえて目を逸らす。

「ノエル様?」
「いや、ちょっと。思った以上に君が可愛らしかったので」
「まあ!」

 エーリエは頬を染めた。なんとなく2人は互いにどうしていいかわからずおろおろして、それから、どちらともなくなんとなく笑いだした。声をあげて笑いながら、エーリエは「幸せだわ」と心から思い、そして、またほんの少しだけ泣いた。