(本当にこの指輪で……)
ノエルに会えるのだろうか。マールトから受け取った指輪をポケットの中でぎゅっと握りしめる。それとも、手紙を書けばよかっただろうか。いや、手紙というものを書いたらどうやって出すのかも自分はわからない。ならば、直接行くしかないではないか……。
と、あれこれ考えている間に時間は経過し、馬車は止まった。ボックスのドアを開けて、御者が「着きましたよ。待ちますか?」と尋ねて来た。そうか。来たならば帰りも馬車で帰る必要があるのか……とようやく気付き、待機を依頼する。
「これが、ユークリッド公爵家……」
大きい。城下町にある家をいくつ繋げたらこの大きさになるのだろうかと、エーリエはぽかんと口を開けた。大きい邸宅の外側を、ぐるりと高い塀が囲んでいる。馬車は邪魔にならない場所へ移動をしていき、門の前でエーリエはぽつんと一人になった。そこには、門兵が三人立っている。なるほど、家に出入りをするのもこんなに大仰なのだな、とエーリエは半歩だけ前に進む。
「あの……」
心臓がどくんどくんと激しく高鳴る。自分から人に声をかけることは、店でのやりとり以外にほとんどない。だが、エーリエはなけなしの勇気を出して、門兵に近づいていった。
「何か御用ですか。お嬢さん」
思ったよりも優しい返事に、ほっと胸を押さえるエーリエ。
「こちらは、ユークリッド公爵家でしょうか」
「はい。そうです」
「えっと、ノエル様にお会いしたいのですが……」
「お約束をしていらっしゃいますか?」
「い、いいえ……あの、わたし、エーリエと言います。この指輪をノエル様から頂いているんですけれど……」
そう言って、恐る恐る指輪を茶色の鞄から取り出して見せた。それを見た門兵は目を大きく見開き、もう一人の門兵に声をかける。すると、もう一人の門兵もそれを覗き込み「本物だ」と言った。
「エーリエ様。ノエル様は本日、騎士団の訓練所にいらっしゃいます。馬車で行けばすぐのところですから、もう一度馬車に乗って、この先の2区間行ったところで左に曲がって……ううんと……どう説明したらいいんだ?」
「あっ、あの、わたし、地図を持っています」
そう言って今度はマールトから受け取った地図を広げるエーリエ。ユークリッド公爵家までの地図ではあったが、一応その周辺もそれなりに書き込まれていた。門兵たちは、それを覗いて驚く。
「凄いですね。こんな地図をどこで手にいれたんですか?」
「この地図はマールト様がくださって……あっ、マールト様は、ご存じでしょうか?」
「はい、はい、存じ上げております。そうですか、マールト様から」
ノエルに会いに来た女性が、マールトのことも知っている。彼女は貴族令嬢のような恰好ではなかった。むしろ、どう見ても平民だ。だが、きっと何かあるのだろう……門兵たちは互いに目配せをして「大丈夫だ」と伝えあう
「ああ、ここです。ここに行かれれば、ノエル様とお会いできますよ。今日は一般公開をしている日ですから、特に身分の証明も必要なく訓練所に入れることでしょう」
「わかりました。ありがとうございます!」
エーリエは頭を下げて、少し離れた場所で待っていた馬車に向かって走る。ああ、よかった。門兵の方々は優しい人だった……ほっと胸を撫でおろしつつ、御者に地図を見せ、たどたどしく説明するのだった。
ノエルに会えるのだろうか。マールトから受け取った指輪をポケットの中でぎゅっと握りしめる。それとも、手紙を書けばよかっただろうか。いや、手紙というものを書いたらどうやって出すのかも自分はわからない。ならば、直接行くしかないではないか……。
と、あれこれ考えている間に時間は経過し、馬車は止まった。ボックスのドアを開けて、御者が「着きましたよ。待ちますか?」と尋ねて来た。そうか。来たならば帰りも馬車で帰る必要があるのか……とようやく気付き、待機を依頼する。
「これが、ユークリッド公爵家……」
大きい。城下町にある家をいくつ繋げたらこの大きさになるのだろうかと、エーリエはぽかんと口を開けた。大きい邸宅の外側を、ぐるりと高い塀が囲んでいる。馬車は邪魔にならない場所へ移動をしていき、門の前でエーリエはぽつんと一人になった。そこには、門兵が三人立っている。なるほど、家に出入りをするのもこんなに大仰なのだな、とエーリエは半歩だけ前に進む。
「あの……」
心臓がどくんどくんと激しく高鳴る。自分から人に声をかけることは、店でのやりとり以外にほとんどない。だが、エーリエはなけなしの勇気を出して、門兵に近づいていった。
「何か御用ですか。お嬢さん」
思ったよりも優しい返事に、ほっと胸を押さえるエーリエ。
「こちらは、ユークリッド公爵家でしょうか」
「はい。そうです」
「えっと、ノエル様にお会いしたいのですが……」
「お約束をしていらっしゃいますか?」
「い、いいえ……あの、わたし、エーリエと言います。この指輪をノエル様から頂いているんですけれど……」
そう言って、恐る恐る指輪を茶色の鞄から取り出して見せた。それを見た門兵は目を大きく見開き、もう一人の門兵に声をかける。すると、もう一人の門兵もそれを覗き込み「本物だ」と言った。
「エーリエ様。ノエル様は本日、騎士団の訓練所にいらっしゃいます。馬車で行けばすぐのところですから、もう一度馬車に乗って、この先の2区間行ったところで左に曲がって……ううんと……どう説明したらいいんだ?」
「あっ、あの、わたし、地図を持っています」
そう言って今度はマールトから受け取った地図を広げるエーリエ。ユークリッド公爵家までの地図ではあったが、一応その周辺もそれなりに書き込まれていた。門兵たちは、それを覗いて驚く。
「凄いですね。こんな地図をどこで手にいれたんですか?」
「この地図はマールト様がくださって……あっ、マールト様は、ご存じでしょうか?」
「はい、はい、存じ上げております。そうですか、マールト様から」
ノエルに会いに来た女性が、マールトのことも知っている。彼女は貴族令嬢のような恰好ではなかった。むしろ、どう見ても平民だ。だが、きっと何かあるのだろう……門兵たちは互いに目配せをして「大丈夫だ」と伝えあう
「ああ、ここです。ここに行かれれば、ノエル様とお会いできますよ。今日は一般公開をしている日ですから、特に身分の証明も必要なく訓練所に入れることでしょう」
「わかりました。ありがとうございます!」
エーリエは頭を下げて、少し離れた場所で待っていた馬車に向かって走る。ああ、よかった。門兵の方々は優しい人だった……ほっと胸を撫でおろしつつ、御者に地図を見せ、たどたどしく説明するのだった。