「えーっと、これは大切にここに置かないと」

 エーリエは、ノエルから受け取ったポーションを棚にしまった。そのポーションは、先代の魔女が作って置いていった大量の薬の中の一つだ。要するに、それ一本だけではないので、それらを片付けた時に片付け漏れてしまっていたのだと思う。とはいえ、自分が間抜けすぎだろうと彼女は自分に呆れた。

 自分と違って、先代魔女の力は強かった。だから、彼女の死後も、このポーションやら何やらごちゃごちゃあるものは、効能を失わずにそこにある。

 その中のいくつかの瓶をしみじみ眺めて、彼女は呟いた。

「うう~ん、やっぱり古代語の勉強をしましょうか……そろそろ、この家の書物も読み終わってしまいますものね」

 そう呟くには理由がある。先代の魔女が作ったよくわからない薬の中に、いくつか未完成のものがあったからだ。そして、彼が持って来たポーションもその一つだ。

 先代の魔女は、才能はあったが努力はからっきしで文字の読み書きが得意ではなかった。だから、この家に沢山積みあがっている書物は、更にその前の代の魔女たちのものだ。何故、代々魔女がこの家に住み着くことになるのかはわからない。ただ、何故かそうなっているのだと言う。

 だから、山積みの書物たちを先代の魔女はあまり読んでいない。エーリエの母親が来てからは、解呪のために母親が多くの書物を読んでいた。けれど、エーリエの母親も古代語は読めないため、書物は埃をかぶったままだ。

『お前は文字をわたしよりよく読めるようになるといい』

 幼いころ、何度も何度も言われていた。幼いエーリエは書物を眺めることも好きだったし、遠い記憶で母親が自分に書物を読んでくれていたことを、かすかに覚えていた。だからなのか、読み書きが苦手な先代魔女の力をそんなに借りずに、エーリエはそれを出来るようになった。彼女の才能は魔女の才能よりも、言語の読み書きの習得に発揮されたと言うわけだ。

 他の才能がそんなにない彼女は、この家の書物を読むだけ読んだが、どうにも魔女としては一流にはなれない。自信をもって出来る魔法は、結局魔女に教わったものいくつかの、生活魔法と呼ばれるものがほとんど。そして、作れるものはと言えば、ほとんどがポーションやら解毒剤などだ。それでも、今は特に不自由をしていないので、まあいいかと思っている。

 エーリエは、先代の魔女が亡くなってからも書物を読み続けた。そして、魔法に関する書物から「自分でも出来るんじゃないか」と思った魔法を手当たり次第に試していった。その結果、わかったのはやはり彼女には魔法の才能があまりない、ということだった。

 小さな魔法から大きな魔法まで、彼女が試した魔法はそれこそ100を超えていた。中には最初から眉唾ものの魔法もあった。それも試した。小さな生活魔法をいくつか使えるようにはなったけれど、少し高度なものになると長い詠唱が彼女には必要だった。特に、戦などで有効な攻撃魔法。それらはからっきしで「こんな長い詠唱をしてもこれぐらいの威力?」と頭を抱えるほど、壊滅的に不得意だとわかった。

 それでも、書物を読むことそのものは好きだったし、先代魔女が言ったようにそれらから彼女は多くのことを学んだ。

「うん、そうしましょう! 折角あれだけの書物があるんですもの。それに、わたしが使える魔法が少しぐらいは書いてあるかもしれないし」

 ポーションを作る道具を出しながら、彼女はそっと呟いた。

 その部屋の隅にずっしりと並んでいる書物。それは、先代魔女もまったく手をつけなかったし、エーリエの母親も多分どうにも出来なかった古代語で書かれたものたちだ。ざっと見て100冊――本の形ではないものが半分以上だが――はあるだろう。

「とはいえ、勉強の仕方は、よくわからないのよね……」

 と、呟いてから、彼女はポーションを作りだした。