その日の夜、俺は寮長に申請を出して、父に電話を入れた。
『どうだ。花嫁探しは順調か?』
「そっちは、ついでだったはずだけど」
『ハハッ、そうだったな』
「……でも、気になる子はできた」
『お? そうなのか。どこのプリンセスだ?』
「メイド科の子」
俺は彼女の容姿を思い浮かべた。
頭の高い位置にある二つのお団子、目の上で切りそろえられた前髪、小動物のようなくりっとした目、口角を上げるとつり上がる頬、メイド科専用のモノクロ制服がにあう華奢な体。
ふしぎだけど、今までだれにも惹かれなかった俺が、なぜか彼女にだけはすごく惹かれるんだ。
『メイド科だと? なんとおまえらしい』
「まあ、そういうことだから」
『おおいにけっこう。だれを好きになろうと、私はなにも言わんよ。ところで、テレビのインタビューの件だが……』
「わかってる。ちゃんと出るよ」
『おー、サンクスサンクス! もうすぐ新作の発表があるから、事前の話題づくりは欠かせんのだよ』
ユースケ・タカミの息子として生まれてからずっと、俺は日本で母と暮らしている。
母の意向で今まで身分を隠していたが、『中学生にもなったし、そろそろ表に出てもいいのではないか?』と父に言われた。
すべては仕事のため。
日本でL社の新製品を発表する予定なのだが、その前に話題を作りたいそう。
それが、俺がテレビのインタビューを受けることになったいきさつだ。