チセが悪魔と名付けられ、だいぶとたった。その呼び方はほかのクラスにまで広がっていた。
 朝、くもりだった。
 野いちご学園高等部正門前。正門に野いちご学園高等部と彫られている。
 生徒たちが登校している。
 チセが登校していた。
 「悪魔」
 と、同級生の女子がいった。
 「あ、悪魔だ」
 と、女子。
 「悪魔、今日こそ退治してやる」
 と、男子がかけてきた。
 チセは校門をくぐった。歩いていった。
 チセの後ろに高瀬君がいた。高瀬君はチセをみつめていた。高瀬君の後ろから橋本ここなが来た。
 「あ、悪魔じゃん」
 と、いってここなはスマホを出した。
 高瀬君は走った。
 「黒田さあん」
 チセは振り向いた。
 「黒田さん」
 と、高瀬君がチセと向かい合った。
 「え、どういうこと。高瀬君が悪魔と・・・・・・・」
 と、女子。
 「高瀬君、悪魔といるう」
 と、女子。
 「ねえ、黒田さんってえ、悪魔族なのお」
 と、高瀬君。
 「え」
 女子たちが噴出した。
 「やあっぱり高瀬君もからかってるんだあ」
 「ねえ、黒田さんてえ、悪魔族なのお」
 チセは止まった。チセはうつむいた。
 「角はあるの?」
 女子たちがくすくす笑っている。
 高瀬君は横を向いて、すぐチセに向いた。
 「ねえ、黒田さん、僕と握手してくれない?」
 「え」
 と、チセ。
 「え、高瀬君何を」
 と、女子。
 「黒田さん、握手してくれない?」
 「え、ああ、うん」
 「やったあ」
 と、高瀬君。チセは赤くなった。
 「えええええええ」
 と、女子。
 高瀬君はにっこり笑って右手を出した。チセはかたまった。ゆっくりと、右手を出した。高瀬君がチセの手を握った。 
 「え、うそお」
 と、女子。
 高瀬君が手を放した。高瀬君は横を見た。
 「ようし、これであれができるぞ」
 高瀬君は右手を振り上げた。
 え、何を、とチセは思った。
 「悪魔族、黒田さんよお」
 と、高瀬君は叫んだ。
 女子たちがくすくす笑った。
 「我に力をおおおおお、ドラグティックアタック!」
 と、叫んで高瀬君は右手を前へやった。
 え、何を、とチセ。
 しーんとなった。
 「あれ」
 と、高瀬君は自分の右手をまじまじと見た。
 「あの、高瀬君、一体どうしたの?」
 と、チセ。
 「え、あのう、黒田さんと握手したら、黒田さんの魔力がいただけて、ドラグティックアタックていう魔法が使えると思ったんだけど」
 女子がくすくす笑っている。
 チセはうつむいた。
 「でもお」
 と、高瀬君。
 「ん」
 と、チセ。
 高瀬君はにっこり笑った。 
 「黒田さんは僕の友達だよね」
 「え」
 「違うのお」
 「え」
 「だってえ、友達じゃなかったらあ、握手なんてしないでしょう」
 「え」
 どうなんだろう。
 「じゃあ、なんで握手してくれたのお」
 「なんでって、握手してくれっていうから、のりっていうか、流れっていうか」
 「あは、じゃあ、やっぱ友達だあ」
 「え」
 「だってえ、のりとか流れで握手しちゃうってことはやっぱ友達ってことだよね」
 「え」
 チセは止まった。野いちご学園高等部に入学して以来、友達なんていなかった。
 橋本ここなが二人を横切っていった。高瀬君はそれを見た。
 「やったあ、ドラグティックアタックはうてなかったけど、悪魔族黒田さんと友達になったぞ」
 「え」
 「ずっとあこがれてたんだあ。黒田さんに」
 「え」
 「ええええええええ、高瀬君が悪魔にあこがれてた」
 と、女子。
 高瀬君はガッツポーズをした。
 「かっこいいもん」
 「か、かっこいい」
 「うん」
 と、高瀬君。 
 「だって悪魔族でしょう。かっこいいなあ」
 「え」
 チセはなんとなく不快に思った。
 「かっこいいよ。悪魔族って」
 チセは黙った。
 「いいなあ、僕もなりたいなあ。悪魔族」
 「・・・・・・・」
 「黒田さんって、クールでかっこいいよね」
 「え」
 「ああ、声もクールだあ」