チセはなかなか友達ができなかった。クラスではいつも独りだった。
 「なんか、黒田さんて、不気味だよねえ」
 クラスの女子のグループが噂していた。
 「気味わるうい」
 「グループに入らないのかなあ」
 「あんた声かけてみなよ」
 「えええええええ」
 廊下を歩いても、「あ、黒田さんだ」「不気味だよねえ」「気味悪い」「挙動不審だよねえ」とか言われた。
 昼食も独りだった。
 「黒田さん独り弁してるう」
 と、女子のグループ。
 「しーっ」
 「なんか食べてるう」

 ある日のこと。その日は空がどんよりし曇っていた。
 1年C組。
 黒田チセは一人で机に座っていた。
 「ねえ、黒田さんて、髪の毛わけてるよねえ」
 「なんでかなあ」
 と、女子。
 「黒田さんて、性格悪いよねえ」
 「性格最悪」
 「性格おかしいよねえ」
 「黒田さんってヤンキーじゃない」
 「そうだよねえ」
 「挙動不審だよねえ」
 橋本ここなは、それらの妄想のような誹謗を黙ってきいていた。ここなは、こぶしをぎゅっと握った。ここなは、チセの座っている机へ行った。
 「え、橋本さん?」
 チセはか細い声でいった。
 「黒田さん」
 と、ここなは笑顔で話しかけた。
 「ええええええ、ここなんが、黒田さんに話しかけてるよお」
 と、男子。
 「ショックー」
 と、男子。
 「え、橋本さんが、黒田さんに」
 と、女子。
 「クラスの人気者がクラスの嫌われ者に上から目線で慈悲ってわけ」
 と、女子。
 ここなは、こぶしを握り締めた。汗がにじみ出る。
 高瀬君が不安げに見ていた。
 「黒田さんてさあ、いつも何してるの」
 「え」 
 「え、いや、いつも独りだから何してるのかなあっと思って」
 「ああ、占いやったり、本読んだり」
 「へえ、占いとかやるんだ・・・・・・・」そのあと、「やっぱり」とここなは、小さくつぶやいた。
 「え」
 「あ、なんでもない」
 ここなは、黙った。
 「どんな本読むの?」
 「え・・・・・・・、都市伝説とか、占いとか、オカルトとか」
 「ふうん」
 ここなは考え込んだ。
 「なんで黒田さんって、独りなの?」
 「うううん、独りが好きっていうか。それに私、小さいころから色々見えるし、それで、みんなが不気味がるのかも」
 「見えるって?」
 「幽霊とか妖精とか」
 「えええええ、きしょおいいいいい」
 と、クラスの女子。
 「何それ、幽霊とか妖精がみえるって」
 と、女子。
 「まさか、そんなんで男子の気をひこうとしてるんじゃあ」
 と、女子。
 「な、わけねえよ、そんなんでひかれるかよ」
 と、男子。
 「なあ」
 と、男子。
 ここなは、こぶしをぎゅっと握った。
 「はあい、皆さん、注目っ!」
 と、ここなが大声を出した。
 皆が止まった。
 「お、宇宙一の美少女から発表があるぞ」
 と、男子。
 「橋本さあん」
 と、男子たち。
 「みんなのアイドル黒田さんの呼び方が決まりましたあ」
 女子が噴出した。
 「ははは、もう一人のアイドルか」
 と、男子。
 「黒田さんの呼び方はあ・・・・・・悪魔にけってえ」
 ここなは大きい声でいった。
 「おお」
 皆が歓声をあげた。
 高瀬君がチセを見た。
 高杉シンが
 「悪魔」と、手をたたいてはやした。
 「お、おいシン」
 と、シンの友達の茶髪セミロングの男子圭吾。
 皆がはやし始めた。
 「あくま、あくま、あくま、あくま・・・・・・」
 「え」
 と、高瀬君がみんなを見た。
 チセはうつむいていた。それをここなが見た。
 「はあい、悪魔コールやめい」
 と、ここなが大きい声でいった。悪魔コールがやんだ。
 「悪魔かあ」
 「ぴったりじゃない」
 「性格悪いしなあ」
 「性格最悪」
 「性格ワル」
 みんなが口々にいった。