社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~【書籍化+コミカライズ連載中】

 私とアレッタの涙が止まった頃、アイリーン様が部屋を訪ねて来た。

「セレナ様の隣のお部屋で警護していただけることになりました。この度は本当に申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございます」

 硬い表情でそう言ったあとに、アイリーン様は深々と頭を下げる。そんな彼女を半ば無理やり席に座らせて、私達はお茶会を再開した。

 しばらくすると、リオ様が来たので、また同じようにお茶会にお誘いする。

 リオ様のお茶が運ばれたとき、エディ様が部屋に入って来た。

「セレナ様。この離宮で働くメイドが『ぜひ、お茶と一緒に』と、菓子を持って来ました」

 エディ様の後ろから、顔を出したコニーはとことこ歩いて私の側にくる。

「毒見は済ませていますよ」

 そう耳打ちしたコニーは、泣いたあとでまだ少し目が腫れてしまっているけど、キリッとした凛々しい顔をしている。

 私は先ほどのエディ様との会話を思い出した。

 ――違いますよ。あれはね、悔し泣きです。
 ――あいつ、これからもっともっと強くなりますよ。

 きっと今のコニーは、私に『大丈夫?』なんて聞かれても嬉しくないはず。だから、私は大丈夫の代わりに感謝の言葉を伝えた。

「ありがとう、コニー。あなたがいてくれるから、私は安心して過ごせるわ」

 コニーの表情がパァと明るくなり、「はい!」と元気なお返事が返ってくる。

 そのあとは、コニーやエディ様も交えて、皆でお茶会をした。

 アレッタが淹れてくれたお茶も、いろんな種類のクッキーもとても美味しい。

 クッキーをかじるとサクッといい音がする。コニーが「セレナお嬢様。これ、とっても美味しいですね!」と私に微笑みかけた。

 その明るい笑みは、私とコニーが肩を寄せ合い暮らしていたときと少しも変わらない。

 でも、今の私達の周りには、こんなにたくさんの人達がいてくれる。そのことがとても嬉しい。

 リオ様がそっと私の手を握った。

「長い一日だったな」
「はい……。今日はぐっすり眠れそうです」
「俺もだ」

 下の階からは賑やかな声が聞こえてくる。

 バルゴアの騎士達には、お肉と少量のお酒を差し入れするようにリオ様が手配してくれたらしい。警備があるから、全員が一度に休憩することはできないけど、交代で休憩してもらうそうだ。

 今日は、本当に、長い一日だった。

 *

 あっという間に日が暮れた。

 豪華な夕食をいただいたあと、お風呂に入り身綺麗になった私は寝室へと向かった。

 広い室内には、大きな天蓋(てんがい)付きベッドが置かれている。

「部屋が広すぎるし、一人で寝るにはベッドが大きすぎるわね……」

 あまりの寝室の豪華さにそんなことをポツリと呟いたら、私が入って来た扉とは反対側の扉がガチャリと開いた。

 そこには、寝る支度を済ませたリオ様の姿があった。

 お互いの視線が重なる。

「セレナ? すまない、部屋を間違えた」

 リオ様は自分が入って来た扉を振り返った。

「あれ? 間違えていないぞ?」

 私は私の部屋からこの寝室に入った。そして、リオ様はリオ様の部屋からここに入って来たはず。
 ということは、リオ様の部屋と私の部屋の間にこの寝室があって、繋がっているということ。

「どうやら、ここは私達共通の寝室のようですね」
「……?」

 きょとんとしているリオ様に、私は「二人で一緒に寝て下さいということだと思います」と伝える。

「でえっ⁉」

 大げさに驚いたリオ様は、ハッとなった。

「カルロスが『礼にいい部屋を使わせてやる』と言っていたのはこのことか⁉」
「そうなのですね。では、せっかくなので一緒に寝ましょう」

 リオ様は顔と両手をブンブンと左右に振りながら「無理だ!」と叫んだ。

「どうしてですか?」

 リオ様は以前、カルロス殿下との会話中に、私と手を繋いで一緒に寝るつもりだったと言っていた。

「ここなら手を繋いで寝ることができますよ」

 手を繋いで寝るなんて、子どものころにお母様と一緒に寝たとき以来だわ。あのときは、夜遅くまでいろんなお話をして、とても楽しかった。

 リオ様ともそういう楽しい時間が過ごせるかもしれない。

「リオ様、早く寝ましょう」
「い、いや、本当に無理です!」

 なぜかまたリオ様が出会ったころの丁寧語になっている。

「寝るだけですよ? 何もしませんから」
「セレナはしなくても俺が――って、と、とにかく無理ですから!」

 真っ赤な顔で逃げ出そうとするリオ様の腕を、私はしっかりと掴んだ。

 鍛えているリオ様に本気で抵抗されたら、私なんて吹き飛ばされてしまう。

 でも、そんなことにはならず「無理です、無理です」と言いながらも、私に付いてきてくれるので、たぶん本気では嫌がっていなさそう。

 先にベッドに上がった私が、「よいしょ、よいしょ」と言いながらリオ様を引っ張ると「ううっ」と情けない声を上げながらリオ様もベッドに上がってくれた。

「少しだけ、お話するだけですから、ね?」

 ソワソワしているリオ様は、今にも逃げ出してしまいそうだ。
 もしかしたら、本当に嫌がっているのかもしれない。

「あの、無理強いしてすみません。亡くなったお母様と一緒に寝たとき楽しかったので、リオ様ともそんな時間を過ごせたらいいなと思ったのですが……もし、本当に嫌なら……」

 そう伝えると、リオ様は「セレナ……」と言いながら、私の頭を撫でてくれた。

「そういうことなら分かった。話すだけ話そう。だが、俺はここでは絶対に眠れないから、セレナが寝たらソファで寝る」
「分かりました」

 リオ様と並んで横になると、なんだかくすぐったい気持ちになる。

 今日はいろんなことがあったから、お互いのことを話すだけでも長くなってしまいそうね。

 リオ様はディーク殿下と二人で何を話したのかしら?

 私はアイリーン様を必死に追いかけたときのことをお話したいわ。

 そんなことを考えながら、隣のリオ様を見ると、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「えっ⁉ リオ様?」

 名前を呼んでも返事がない。

 ツンツンと指で頬をつついても反応なし。

「もう! ここでは眠れないんじゃなかったんですか?」

 呆れてため息をついたけど、眠っているリオ様がとても幸せそうに笑ったので、私もつられて笑ってしまう。

「お疲れさまでした」

 そう言いながら、私はリオ様のおでこにキスをしたあとピッタリとくっついた。婚約者だし、別にこれくらいならいいわよね?

 リオ様は、温かくて心地良い。私もだいぶ疲れていたようで、すぐに深い眠りに落ちて行った。