C組のとなりの靴箱をパカリと開けて靴を履き替える彼は、その最中にも「一人で帰っちゃダメだからね!」と執拗に口を挟んできては、急いで私の横を陣取ってくるから鬱陶しくて困る。
確かにあの日、瀬名川祥が夜道で私のことを引き止めたところまでは覚えているけれど、"付き合う"という形になった経緯がまるで分からない。
『狙ってたんだよね』とは言われたけれど、『付き合って』とも『好きだ』とも言われた記憶がないからなおさら、無駄に背の高いこの男が一体何者なのか探ってしまう。
まぁ、思い出さなかったところで然して問題もないのだけれど。
私はいつもどおりに《C組15番》のそこを開けて、ローファーを持ち上げた途端、ズキッと右手に走る激痛に顔をゆがめた。
「いった……っ」
使い物にならなくなった私の右手は、今日もとことん私の意に反抗したいらしい。
そして追い打ちをかけるように、痛みに耐えたその反動から小刻みに震え始めるから、この無様な右手はもはや滑稽だ。



