人の気持ちは移ろいやすい、とよく聞く。
私自身もまだ、他人を愛するという方法を知らないし、愛されるということがどういうことなのかも分からない。
だけど、いやだから、瀬名川の今の気持ちに応えてみるのも悪くないかもしれない。
いろんな初めてを経験しようとしたんだ。
私と瀬名川が今後、どういう道を辿っていくのかはともかく、今は彼の想いを受け取ってみるのも一興かもしれない。
今の私に受け取れるモノなんて、きっと、そう多くはないだろうから。
「あ、そうだ。さっき俺、葉ちゃんとの最終目標は結婚って言ったけど、それと同じくらいの目標が見つかりました」
「な、なに?」
「葉ちゃんがこの先、"書道のおかげで俺と出会うことができました"って思ってくれたらいいなーって」
「……ふっ。なにそれ」
「書道の道に戻れるか、俺の命が助かるかっていう究極の二択に迫られた時にね?葉ちゃんが迷わず俺を選んでくれるようになるまで、頑張るからさ」
「そんなの迷わず書道だよ」
「傷ついた」
「早く癒しなよ」
「……うん。そうする」



