「……っ」
「はい、どーぞ?」
「……」
「靴、履きなね」
床にバラけ落ちた靴を揃えて足元に並べてくれた彼は、そう言って大きく腰を曲げて私の顔を覗き込む。
こんな情けない自分を見られたくなくて、私は思いきり逸らしながら聞こえるか聞こえないかほどの声量でお礼を述べた。
ギュッと力いっぱい握り締めることもできない私の手は、少しだけ落ち着きを取り戻す。
校門を出ると、夕日に照らされた雲がオレンジ色に染まっていた。
そういえば、今までこんなふうに空を見上げたことなんて一度もなかったような気がする。
真っ暗になるまで書道教室の中に籠って、お腹が空いたタイミングで切りあげて急いで帰宅、を繰り返していたからか、心に余裕ができたと言えば聞こえはいい、けれど本当のところはただの暇を持て余した今だからこそ、その景色が複雑に心に染みた。



