憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。



「本田先生は何で脳外科医になろうと思ったんですか」

「は、はあ? 昔から勉強はできたから、うちの実家も脳神経クリニックだし、後を継ぐためですよ。まあ、羽倉先生みたいに全国でも指折りの優秀な脳外科医だったらさっさと辞めてクリニック継いでますけどね」

 皮肉たっぷりな言葉を俺に浴びせる本田先生。

 『優秀な脳外科医』

 俺の過去を、咲村さんとの出来事を、あの時俺がどれだけツラかったから何も知らないで好き勝手なことを言う。

「本田先生は、今まで僕が何の苦労も挫折もせずにここまできたとでも言いたいんですか?」

「そんなことは言ってないじゃないですか。ですが、結果的に今、羽倉先生は凄い逸材ですし、過去や今までがどうであれ大成功なんで羨ましいですよ。あーあ、俺も羽倉先生になりたかった人生でしたー」

 肘までゴシゴシと洗い終えた本田先生は介助者から手術用のガウンを開封してもらい、それを慎重に羽織りガウンの紐を結んでもらうと、「ではお先にー」と、手袋をした両手を胸の位置まで上げて入っていった。

 俺は今まで数え切れないほどの患者さんをオペしてきたけれど、未だあの時の悔しさは薄れぬまま消えてくれない。