亜矢ちゃんの気分が暗くならないように、話題は仁田先生や柳先生のプライベートな面白おかしい話に逸れた。

 気づいたときには夜中の一時を回っていて、いつもは飲まないお酒でべろべろに酔っ払っている仁田先生と柳先生を起こし、二人に「先生達、明日日勤じゃないんですか? 僕は当直ですけど」と聞くと、「明日僕らは休みでーす」と呂律が回っていない返事が返ってきた。

「亜矢ちゃん、ごめん、とりあえず先生達を俺の車で送っていくから一緒に来てくれないかな」

 そう聞くと亜矢ちゃんは両手を小さく振って「いえ」と拒絶した。

「私、もうこのまま帰ります。先ほどお伝えした通り仁田先生にとてつもない金額お借りしたのでタクシー呼べますし、これ以上ご迷惑はかけられないので」

 意地でも自分の家に帰りたいらしい。

 分かってる、偶然出会えて舞い上がっているのは俺だけだ。

 亜矢ちゃんは当時の俺のことなんて知らないんだから当然だ。でも、理由はどうであれ、彼女はまたここに戻ってきてくれた。今度はこのまま引き下がれない。