〇莉子宅(朝)

莉子「ふぅ~今日も疲れたぁ」

莉子、新聞配達のアルバイトから帰宅する。
何もない部屋で簡単な食事を取る。
壁に三つのルールが貼ってある。

『一つ、借りを作らない(勉強関係以外で)』
『二つ、お金を大事に(遊ばない)』
『三つ、恋をしない(最重要)』
 
〇通学路(朝)

莉子、通学路で単語帳を持っているが上の空で、

莉子(あ~それにしても昨日の私はなんだったんだ)

***
(フラッシュ)
陽斗の胸の中で泣く莉子。
***

莉子(いま思い出すとめっちゃ恥ずかしい。あったばかりのクラスメイトに弱みを見せるなんて――)
莉子(確かに彼は優しくてカッコいいのは事実だったけど、私には関係ないこと)
莉子(一人暮らしに慣れなくて、ホームシックになってたに違いない)
莉子(いかんいかん、勉強に集中集中)

〇学校・教室(朝)

莉子、教室の入り口に着く。
陽斗の席の周りに人だかりができている。

女子A「どうしたの早乙女君?」
女子B「ぐったりしてるけど、疲れてるの?」
女子C「元気出して~」

陽斗、机にやる気のない様子で項垂れている。
莉子、特に声をかけずに席に着席する。

陽斗「はぁ~、私の生き甲斐……」
先生「席に着けぇ~HR始めるぞぉ~」

N「一時間目 数学」

先生「で~あるからして」

莉子(よかった、全国屈指の偏差値の学校だからついていけるか少し不安だったけれど)
莉子(これなら大丈夫そうだ)

莉子、ノートを書き損じて、

莉子(あっ、間違えた消しゴムは――)

莉子、筆箱の中を漁るが中々見つからない。

陽斗「(小声)小泉さん、消しゴムをお貸ししましょうか?」
莉子「いえ、持ってますので大丈夫です」
陽斗「そう……ですか」

莉子、寸前の所で小さな消しゴムの欠片を筆箱の奥から見つける。
陽斗、捨てられた子犬のような表情になる。

莉子(なんなんだ彼は、こちとら人に借りを作りたくないっていうのに)
莉子(どうせ碌なことになんか……)

〇(回想)莉子の幼少期

莉子父「善意っていうのはね、もらった分だけ返さないといけないんだよ」
莉子幼「うん!」
莉子母「でも、あなた大丈夫なの? いくら家族ぐるみで懇意にしてる会社の部下だからといって……」
莉子母「こんな額は……」
莉子父「大丈夫さ! ほらこの前莉子が公園で怪我した時もママが体調を崩した時も何も言わずに助けてくれたじゃないか」
莉子父「彼は真面目で信じられる人だよ!」
莉子母「それはあなたが会社の上司だからで……それに真面目ならこんな額の借金は――」

(回想終わり)

莉子(その借金がきっかけで父は蒸発――)
莉子(いつ優しさの中に裏切りがあるか分かったもんじゃないよこの世の中)
莉子(もらった分は同じ分かそれ以上の返しを要求されるもの)
莉子(だから私は小さな事でも借りを作らないと決めたんだ!!)

N「二時間目 国語」

莉子、真面目な態度で授業を受けている風に見えるが授業に集中できなくて、

莉子(あ~それにしても、冷静に考えれば昨日彼に保健室まで運んでもらったんだった)
莉子(でも無理やり運ばれたといえなくもないし、後でお礼もしっかりいったわけだし……)
莉子(逆の立場だとしたらそれ以上のお礼は期待しないわけで――)
莉子(あぁ~やっぱり借りを作るとめんどくさい!)

先生「次のところを小泉さん読んでください」

莉子N「しまった……ボーっとしてて授業を全然聞いてなかった」

陽斗「(小声)10ページの4行目からだよ」
莉子「えー、メロスはその夜、一睡もせずに――」

先生「――はい、そこまで、次の人は~」

莉子、陽斗に軽く会釈して着席する。
陽斗、満面笑みでそれに答える。

莉子(もーその笑顔何なの!? 今の私って授業を真面目に聞いてない女で)
莉子(ただのめんどくさい奴じゃん!)
莉子(それにさっきからずっと好き好んで手助けをやっているような感じだし)
莉子(まさか昨日言ってた『専属執事』っていうわけわかんないことが関係しているの?)

〇(回想)学校・保健室(夕方)

莉子、陽斗の胸の中で泣いている。

陽斗「私をあなたの専属執事にしてもらえませんか?」

莉子、陽斗から離れ急に真顔になって、

「(まだ泣きながら)えっ……意味わかんないんですけど」
「もう大丈夫なので、助けていただきありがとうございました」
「それでは、遅れてしまったけどバイトがあるので失礼します」

莉子、一礼をしてそそくさと保健室を去る。

(回想終わり)

N「四時間目 自習」

莉子(う~ん、さっきから隣の彼の事が気になって勉強に集中できん)
莉子(専属執事ってなんなんだー!! それになぜ私を何度も助けてくれる??)
莉子(もー我慢ならん!)

莉子、ノートを千切って陽斗に向けたメッセージを書く、以下やり取り

莉子『私の専属執事になりたいってどういうことですか?』
陽斗『私は徳川家次期当主の専属執事をしていた者なんですが、実はご当主様が留学してしてしまって』
莉子『専属執事ならご当主様と一緒に留学するが当然なのでは?』
陽斗『それがご当主様のご意向で、高校の時くらいはお互いに普通の学生生活を楽しめと』
陽斗『様々な人材と触れ合い、将来徳川家に役立つ人材に成長しろと』
陽斗『そのようなご意向で御座いまして。(小さい字で)誰かに奉仕したいというやり場のない執事心が……』

莉子「(笑顔で)ふふっ」

莉子『そういう事情でしたか。でも普通の高校生は同級生に敬語じゃないし、ましてや仕えたりはしないよ』
莉子『普通に高校っぽく何か書いて?』

陽斗、一生懸命に考え事をして莉子にメッセージを渡す。

陽斗『お昼、一緒に食べるぞ』

陽斗「(小声で)断っても無駄だぞ、決定な?」
莉子「えっ……」

莉子、陽斗の意外な対応に顔を真っ赤にする。