「…叶うよ。」
「…えっ?…え!?今、佐敷さん、なんて?」
油断していた大地が、憧子の手を握ったまま、体を近づけてきた。
「今、大事なこと聞き逃した気がする!もう一回言って!!」
大地の顔が近づいてきてきた瞬間、急に恥ずかしくなり、憧子は大地が近づいてきた分、距離をとった。
「な、ナイショーー!」
そう言うと、大地の手からスルッと手を抜くと、
ぴゅーーっと社務所の方へ走っていった。
「あ!!ちょっと、待ってよ!」
そう言って、追いかけてくる大地。
草履を履いた憧子と、スニーカーを履いた大地。
もちろん、大地の方が圧倒的に足が早いわけで。
憧子が社務所に逃げ込む直前に、大地は憧子に追いついた。
社務所のドアノブにかけられた憧子の手を、大地が握っている。
全速力で走った2人の息は、乱れていた。
「…佐敷さん。」
「な、なに…」
呼吸を整えると、大地が憧子の顔を覗き込んできた。
「縁結び…さっそく叶えてくれない?」
大地の真剣な目に捕らえられて、憧子は目線を逸らせない。
──勇気を、出さなきゃ。
憧子は静かに、コクッと頷いた。
「…嬉しい。」
そう言って笑った大地の顔は、
憧子が今まで見た中で1番、爽やかで嬉しそうだった。
秋の終わりを知らせるような、一際ひんやりとした風が、憧子と大地の頭上にあるモミジを静かに揺らし、
赤く色付いた葉っぱがヒラヒラと数枚舞う。
秋風は冷たいが、キュッと手を握り合った2人の手は温かい。
そんな2人の間で、2つの縁結びの御守りは、
いつまでも、静かに揺れていた。
fin.



