「佐敷さんは怒らないの?」
「え!?」
憧子がポカーンとしたまま大地を見つめていると、大地は少しだけ怒りを滲ませながら気持ちを言葉にした。
「嫌なんでしょ?変なあだ名で呼ばれて。嫌なら嫌ってはっきり言おうよ!じゃないと、いつまでも言われ続けるよ?」
大地の言葉に、みんな黙りこくり、シーンと静まり返る。
大地は黙ったままの憧子に「もっと勇気出して。」と言うと、じゃあなと言って赤井のところに戻り、去っていった。
4人は呆気にとられた表情で大地と赤井の背中を見送った。
「すご。はっきり言うタイプなんだねー、西嶋くんって。」
玲香が関心した様子でそう呟くと、奈緒がその隣で憧子をフォローする。
「でもさー、憧子はあんなにはっきり意見を言えるタイプじゃないんだからさぁ、仕方ないじゃん?男子に言い返すのも、後々面倒だしー。ねぇ?」
そう言うと、奈緒は憧子の顔を覗き込んできた。
「いいなぁ…」
「え?」
ポツリと呟いた憧子の言葉を聞いて、玲香が聞き返すと。
「憧子…?」
心配そうに見つめる友人3人に向かって、弱々しく憧子は微笑んだ。
「西嶋くん、いいなぁ。私もあんな風に、強くなりたいよ。」
風がふわっと吹いて、おかっぱ頭の憧子の髪を揺らす。
涙がじんわり滲んだ目元を隠すのには、丁度いい風だった。



