猫憑き令嬢と忠犬騎士団長様~ヘタレで不憫な団長様は猫がお好き~

「ルフィナ~」

 心配そうな声を出しながら、私の胸に飛び込んでくるピナ。
 帰宅してすぐに、ベッドにダイブしたのが原因だろう。顔の火照りが引き、ベッドから起き上がると、部屋の中は猫だらけだった。

 いつも落ち込んでいた時は、そうしてほしいと頼み込んでいたからだろう。今回は違うと分かっていても、どう対処していいのか、ピナも判断し兼ねたようだ。
 その結果、猫たちが招集されたらしい。

 けれど、ピナが私の傍に来たのを機に、猫たちは離れて行った。

「大丈夫。もう落ち着いたから」
「ん~」

 安心させるように言ったのだが、ピナは不満げに擦り寄ってくる。

「何?」
「何でもない~」
「そんなわけないでしょう」
「ん~」

 頭や体を優しく撫でても、ピナは答えようとしなかった。すると、部屋の扉がノックされた。

「お姉様。クラリッサです。入ってもよろしいですか」

 コロコロした可愛らしい声を拒否することなどできようか。私はクラリッサを部屋に招き入れた。実際は猫たちが周りにいるため、声をかけただけ。
 けれど、そんなことで機嫌を斜めにするクラリッサではなかった。

「あら、お客様がこんなにも。ふふふっ。そんなお姉様に郵便物のお届け物です」
「クラリッサが? 珍しいわね」
「だって、あんなお姉様を見て、気にならない方がおかしいですわ」

 今日はカーティス様との打ち合わせで、出かけていたことは承知済み。好奇心旺盛なクラリッサを止めるのは、至難(しなん)(わざ)だった。
 私は早々に諦めて、隣を叩いた。

「ふふふっ。それで何があったんですか? お一人で帰られたところに、このようなお手紙を渡しに来るなんて。何かあったとしか思えませんわ」

 楽しくて仕方がない、と顔に書いてあるクラリッサを横に、私は表情を曇らせた。

「ですがその前に、この手紙を読んでください」
「……話を先に聞きたかったのではないの?」
「勿論そのつもりでしたが、お姉様は何でも後回しにしてしまいますでしょう。この手紙だって、ここで読まなかったら、一カ月は放置されそうなので」
「さすがに一カ月はあり得ないわ」
「そうでしょうか。あのドレスだって、なかなか開けようとはしなかったではありませんか。さらに、先ほど届いた小包も、未だ未開封です」

 クラリッサの視線がクローゼットから、私の机へと注がれる。仮面舞踏会のドレスにと、カーティス様に買っていただいたブローチが入った箱に。
 持ち歩くこともできたのだが、失くすといけないと思い、伯爵邸に届けてもらったのだ。

 帰宅してからすでに三時間以上は経っている。クラリッサに返す言葉もなかった。

「騎士団長様からいただいたものだから、開けられないんですよね」
「……えぇ」
「それなら、この手紙とて同じことです」

 突き出された手紙。本来なら、無礼を働いた私が、真っ先に出すべきものなのに。

 痺れを切らしたクラリッサが、私の手を引いてその上に乗せる。さらにペーパーナイフまで。我ながら頼りになる妹である。


 ◆◇◆◇◆


 ルフィナ・マクギニス殿

 先ほどは部下が失礼をした。明後日の仮面舞踏会は、あの者がルフィナ嬢の護衛を務めるのだが、問題はないだろうか。
 もしも、不愉快に感じたのであれば、すぐに返事をしてほしい。別の者を手配する。何か希望があれば、それも含めて……。

 いや、今日のことは、前もって伝えていなかったことが原因だ。俺の配慮が足りず、申し訳ない。明後日までに直せる自信はないが、それでも気をつけるつもりだ。
 何でもいい。率直な意見を待っている。

 カーティス・グルーバー


 ◆◇◆◇◆


 何、これ。無礼を働いたのは私なのに、カーティス様から謝罪の手紙が届くなんて。もしかして、ジルケが叱られた? 私が突然帰ったせいで。

「お姉様?」
「ごめんなさい、クラリッサ。今から返事を書かなければいけなくなったわ」
「分かりました。すぐに手配できるように、こちらも準備します」

 私が机の前にある椅子に座ったのと同時に、扉が閉まる音が聞こえた。
 急がなければ、ジルケではない人物が護衛になってしまう。

 カーティス様は団長なのだから、その判断は間違っていない。けれど私は、近衛騎士団の中にいる女性団員など、把握していないのだ。

 ジルケは私に好意的だったけれど、他の団員は? それを考えただけでゾッとした。


 ◆◇◆◇◆


 カーティス・グルーバー侯爵様

 今日はありがとうございました。楽しいひと時をくださったばかりか、このようなお手紙まで。過分な配慮に感謝いたします。

 加えて護衛のことなど、こちらでも仮面舞踏会について調べていたというのに、危機管理不足で申し訳ありません。

 ブルメスター卿については何も失礼なことは一切なかったので、叱らないでください。
 カフェでの出来事は、私が勝手に戸惑ってしまった結果なんです。詳細については、誠に勝手ながら聞かないでください。
 護衛もそのままでお願いします。

 お詫びにつきましては、一度だけモディカ公園やお母様を通さずに、ご依頼を引き受けることでご容赦ください。

 明後日の夕方、お待ちしております。

 追伸。
 カーティス様に直していただきたいところはありません。むしろ、私の方が多いと思います。

 ルフィナ・マクギニス


 ◆◇◆◇◆


「最後の一文はない方がいいかしら」

 いや、と私は首を横に振った。カーティス様の手紙からは、私に嫌われたのではないか、という気持ちが文面に出ていた。
 それを払拭するには、これくらい書かなければ伝わらない、と思う。

 カーティス様の気持ちに気づいてしまった以上、私も誤解されたくなかった。多分、私もカーティス様のことが好きだから。

 でも、今は仕事が、依頼が優先。失敗できない案件だし、集中しなければ私もどうなるか分からない。

 私は小包の傍にある紙に視線を向けた。カフェから立ち去る時に、思わず持って来てしまった紙。

「気を引き締めなくちゃ」

 私は手紙をクラリッサに。ピナには白猫を通して、紙を処分した旨を伝えるように頼んだ。勿論、手紙がカーティス様の元に届く頃を見計らって。