3話『思い出す彼』

〇街・帰り道(夕)
咲夜「だからまひる、俺を早く好きになれよ?」
まひる、また赤くなって慌てて首を横に振る。
まひると咲夜を見ている朝陽。
まひる「も、門限あるから早く帰らないと」
咲夜「そういえばまひる。高校生になって、門限長くなったんだろうな?」
咲夜「中学の時は5時だっただろ」
まひる「うん、6時になった!」
咲夜「6時って……デートさせる気ないのか」
まひる「デートなんて無理だよ!」
まひる(そんなの絶対心臓持たないし!)
ちょうど神社前についている。

〇雀部神社・リビング・夜
まひる「ひどいよ、二人とも。結婚の話ずっと黙ってるなんて」
まひる、ハンバーグをつついている。まひる母、父、まひるの前に座っている。
まひる兄(25・まひるに少し顔が似ている)、入ってくる。
まひる「(兄に)お兄ちゃんも知ってたの?私の結婚の話」
まひる兄「(座りながら)あぁ」
まひる「私だけ知らなかったのね」
まひる兄「まひるは昔から咲夜が好きだったから問題ないだろ」
まひる「な、なんでお兄ちゃんが、し、知って……!(赤くなる)」
まひる兄「いや、普通分かるだろ」
父と母まで頷いている。さらに赤くなるまひる。
まひる父「もちろん鷹野も知ってるけどな」
まひる「おじさままで」
まひる父「だから鷹野もまひるが咲夜くんを選び、咲夜くんを跡取りにするだろうと踏んでるみたいだ」
まひる父「咲夜くんは跡継ぎになりたいってずっと言ってたし。能力も十分だ」
まひる「じゃあ私に選ばせるような真似しなくてもいいじゃない」
まひる母「(のんびり)今は咲夜くんが好きならそう言えばいいだけよ。母さんはまひるが選ぶなら誰でもいいと思うわぁ」
まひる母「別に咲夜くん以外を選んだってね」
まひる「う、うん」
まひる(とはいっても、咲夜くん以外なんてもっと考えられないんだよね……)

〇雀部神社・まひるの部屋
まひる、部屋に入ってため息。
まひるの足元にハガネすり寄る。
まひる「ハガネはどう思う?」
ハガネ「にゃー」
まひる「(撫でながら)ハガネは朝陽くんが好きだよね」

〇自宅・まひるの部屋(朝)
ハガネ、寝ているまひるの頬を舐めている。
まひる「(目を瞑りながら)ハガネ、またぁ……」
寝起きのまひる、目の前には咲夜。
咲夜、まひるの頬に触れている。ドキッとするまひる。
まひる「(赤くなって)咲夜くん⁉ な、な、なにしてるの⁉」
咲夜「おはよう。さっさと起きろよ」
朝陽「おはよう、まひる」
隣から朝陽も。さらに驚くまひる。
まひる「朝陽くんまで⁉なんで朝からうちにいるの!」
咲夜「門限はきついし、こうして朝にこっちに来るしかないだろ」
まひる「(赤くなって)で、出て行って!」
部屋からポイッと追い出される朝陽と咲夜。

〇同・リビング
制服に着替えたまひる、どすどすやってきながら。
まひる「お母さん!なんで勝手に二人を部屋に入れたのよ!」
朝陽「(ご飯をよそいながら)おばさんたちなら今日は朝早い行事があるからって僕たちに任せていったんだ」
咲夜「(味噌汁を置きながら)早く座れよ」
まひる「…………」
おなかがぐう、と鳴るまひる。
三人座って。
「「「いただきます」」」
黙々と食べるまひる。
まひる「今度から絶対勝手に部屋に入らないでよ」
まひる(さすがに寝起きの顔なんて咲夜くんに見られたくないよ)
まひる(よだれ出てなかったかな)
咲夜「はいはい。それよりまひる」
ふいに唇の横についているものをとる。
顔が近くてドキッとするまひる。
まひる(うわ、近い!唇に触れた!びっくりした!)
慌てて顔を背ける。そんなまひるを見て、不敵に笑ってる咲夜。

〇街・登校時(朝)
まひる「なんで一緒に行くの!」
朝陽「行く場所一緒なんだから。むしろ一緒に行かない方が不自然でしょ」
咲夜「別に問題ないだろ(まひるの頭を撫でる)」
まひる(咲夜くん、急に距離が近いよ!)
赤くなったまひるを嬉しそうに見ている咲夜。
女子たちと美麗が眉をひそめて後ろで見ている。

〇高校・屋上につながる階段踊り場(昼頃)
まひるモノローグ『咲夜くんは問題ないだろって言ったけど』
まひるモノローグ『問題は――ある』
壁ドン、の手。
女の子1「どうしてまだ咲夜の周りにまとわりついてるの」
女の子2「美麗の目の前でってひどくない?」
まひる(この2人の友達で、学年一の美少女・城中美麗ちゃんが、咲夜くんの中学校の時の彼女)
まひる、困っている。萌音、飛んでくる。
萌音「まひる!あんたたちなにしてんのよ!」
萌音の鬼の形相に、女の子たち足早に去っていく。
萌音「(まひるに)もう!何かあれば私を呼びなさいって言ってるでしょ」
まひる「私一人で大丈夫だよ。慣れてるもん」
まひる(昔から咲夜くんたちと距離が近かったから、こういうのも慣れてる)
萌音「そんなのに慣れてるのが問題なの!」
まひる「ごめん、萌音ちゃん」
萌音「はぁ……。ほんと、何かあれば言ってよ」
まひる「ありがとう」
まひる(私が咲夜くんを好きなのは事実だから)
まひる(だからか、何も言い返せなかったよ)

〇同・1-A教室(放課後)
まひる、帰ろうとしたときに机の中の紙に気づく。
【理科準備室にきて 咲夜】
まひる「咲夜くん?なんで手紙?」
周りを見渡すが誰もいない。
まひる「結婚の話したいのかな」

〇高校・理科準備室
ドアを開ける。
まひる「咲夜くん?」
後ろから押される。驚いて見上げるとガチャンと扉が閉まる。
声「嘘に決まってるでしょ!やっぱりあんたから咲夜くんにくっついていってるじゃん!」
まひる「違って!」
中は暗い。閉所恐怖症気味なまひる。
まひる「た、助けてください(か細い声)……ひっ!」
隣に人体模型まで。おどろおどろしいものたちが置かれてそうな空間にひるむまひる。
小さく座り込む。奥からガサッと音がする。
まひる「咲夜、くん?」
返事はなく風の音。誰もいない。時間だけが過ぎる。
まひる「昔もあったな、こういうこと」
小さくなってうとうとするまひる。昔を思い出す。

〇回想・小学校・神社の裏の倉庫(夜)
倉庫の中で小学生まひるが小さくなっている。
まひる「どうしよう、かくれんぼしてたら閉じ込められた」
まひる「(小さくなって)このまま死んじゃったらどうしよう」
まひる「……朝陽くん」
泣いているまひる。すっかり外は暗くなってしまってる。その時、扉が開く。
朝陽「まひるっ!やっぱりここだ!」
まひる「どうしてわかったの」
朝陽「まひる、呼んだでしょ」
まひる「ありがとう」
まひる泣いている。朝陽、少し悩んでまひるを撫でる。
(回想終わり)

〇高校・理科準備室(夜)
外は真っ暗。またガサッと音。
まひる(幽霊は無理!)
まひる「(泣きそうになりながら)助けてぇ!」
声「まひる!」
まひる(今、声が――)
まひる、涙が流れる。
まひる「朝陽くん!」
扉が開く。そのまま勢いよく出てくるまひる。
強く抱きしめられる。
声「まひる、今、なんて?」
まひる、驚いて見上げると目の前に咲夜。
廊下の反対から朝陽が走ってきたところで、咲夜と咲夜に抱きしめられているまひるを見つける。

(3話・完)