(どこに連れて行くつもりなんだろう?)
保健室のある総合棟に向かうのかと思いきや、先輩は実習棟の階段を駆け上がっていった。
私が座り込んでいた花壇の真横にある実習棟では技術、家庭科、理科室、美術室などの専門教室がいくつも設けられている。
なにせ十クラスもあると、どの教室もひとつずつでは足りない。
先輩は三階にある第三被服室の前で足を止めると、思い切り戸を開け放った。
「葵~!救急箱~!」
第三被服室の中には、ひとりの男子生徒がいた。
トルソーの前に立ち、首からメジャーを下げていたその人は不機嫌そうに先輩を睨みつけた。
「ちゃんと布は回収できたのか?」
「うん!ちょっと汚れちゃったけど」
「お前が横着して、投げるからだろう!少しは反省しろよ!」
「ごめんてば!」
先輩が手を合わせて謝ると、メジャーの人は回収した布を素早く奪い取り、汚れの有無を目を凝らして確かめていった。
「これくらいなら洗えば取れるな」
そう聞くと先輩はホッと胸を撫で下ろし、クルリと私を振り返った。
「迷惑かけてホントにごめんね!ちょっとした悪ふざけのつもりで布を投げたら、換気していた窓から、飛んでっちゃったんだよ。他の人には内緒にしておいてもらえると嬉しいな」
わざとではないとはいえ、窓から物を投げ落としたということが明るみになれば大事になってしまう。
何度も謝ってくれたし、悪い人ではなさそう。


