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「はい、もう一度」
「やり直し!」
「最初から!」
採寸が終われば、ショーの当日までのほほんと過ごせる……なんて上手い話はなかった。
デザイナーが丹精込めて作った服を活かすも殺すもモデル次第。
ランウェイを華麗に歩くには、ウォーキングのトレーニングが必要不可欠だった。
普段は優しい匠先輩だが、ステージのことになると途端に人が変わったように厳しくなった。
トレーニングの時は一切の妥協を許さない鬼軍曹に豹変する。
(み、水……!)
私は砂漠でオアシスを見つけた遭難者のように、ペットボトルの水をすすり飲んだ。
トレーニングはまず身体をほぐすストレッチから始まり、筋肉トレーニングを五セット。
その後は本格的なウォーキング練習に突入する。
壁に背をついて何度も腹式呼吸したり、顔の表情や目線の動きをスマホでチェックしたり。
私が苦手なのは頭の上にノートを置いて歩くメニュー。
重心がすぐにぶれてしまい、私は何度もノートを落とした。
「緊張感が足りないなあ。次床に落としたら、腹筋二十回!」
「ひうっ!」
「綺麗な姿勢を保つには、ある程度の筋肉が必要!」
背後に漆黒のオーラをまとった匠先輩は容赦なかった。
頭ではわかっていても、全てを同時にこなすのは難しい。本格的な練習を始めて数日の素人には無理な話だ。


