「おっ、来てくれたんだね」
 放課後。
 図書室に顔を出したあたしに気づいた露原先輩は、貸出カウンターごしにニヤッと笑みを浮かべた。
「クッキーおいしかったです。それと――」
「なになに?」
「どうして、あたしが困ってるって分かったんですか?」
 すると、先輩は
「そりゃ分かるよ」
 しれっとそう口にした。

「あ、あたし、そんな暗い顔してました!?」
 ウソ、負のオーラがただよいまくってたとか?
 ところが、先輩は大きく首を横に振った。
「そういうわけじゃないけど。キミずっとうわの空だったから」
 うわの空?

「何日も休み時間や放課後にここへ来てるのに、本を手に取るでもなし。たまに宿題を広げてるけど、熱心に勉強してるわけでもなし」
 ぐっ……そんなとこまで見られてたんだ。はずかしい。
「だから、逃げて来たんだと思ったんだ」
 先輩は、くっきりとした切れ長の目であたしの顔を見つめた。