先輩は、開いたままのドアをながめて。
「ちょっとお説教オヤジみたいになっちゃったかな? だけど、好きなひとがいるって、ほんとうはとても幸せなことだから。想いが伝わらなくて、悲しい気持ちやもどかしい気持ちになることはあるけど、そのひとが自分にとって大切な存在だってことは、ずっと変わらないからね」
 そう言うと、ギュッとあたしの手をにぎりしめた。

「わ……っ!」
 心臓がトクンと脈を打つ。
「今度は逃げないでよ。弓佳ちゃん、オレよりはるかに走るの早いんだもん。こないだも、あの日も、いつだってオレはキミに追いつけなかったんだから」

 あの日?
 ポカンとしていたあたしの口に、露原先輩が
「はい」
 と、なにか放りこんだ。
 
 サクサクッとした歯ごたえに、コーヒークリームの甘さ。
 あたしの大好物『ロゼ』のサンドクッキーだ。
「おいしい?」
「もちろん、おいしいですけど……」
 すると、先輩は満足そうにほほえんで。
「ずっと、うちの店のクッキーを好きでいてくれてありがとう」

「え?」
 うちの店のクッキー?
 ということは、露原先輩ってもしかして……。

「あの日、キミがオレに教えてくれたんだよ。好きって気持ちはそんなカンタンには揺らがないってこと」
「あたしが?」